セイシロウの長い夜

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セイシロウの長い夜

 食事の後、四人は解散しそれぞれの部屋に戻った。  暖炉の炎を見つめながら、セイシロウはアズのことを思い出す。 「いい? セイシロウ。私はね、惚れ薬のせいで変なことを言うようになっちゃっただけだから! 私の言うことをいちいちまともに受け取らないでよねっ!」  と……腕に頬擦りされながら言われたことを。  その時のアズの顔はリンゴのように赤くて可愛らしかった。  自分の意志に反して体が動くというのは相当恥ずかしいことなのだろうと推察する。  可哀想だ。  アズばかり、いつも何事かに巻き込まれ、悩まされている気がする。  最初はまさにセイシロウたちの空間転移に巻き込まれ、研究所の秘密を知ったことで命まで狙われた。森の妖精から精霊石を与えられ、マジカントの未来も彼女の手に託された。ガンツ一家からは誘拐され、その次は惚れ薬騒動だ。  全ての発端はセイシロウたちにある。彼女は完全に被害者だ。  守らねばならない。  早く精霊石の力を剣に取り入れて、どんな困難も斬り進む戦士になり、彼女を国に返さなければならない。    ずっと一緒にいてね。  ふとアズの言葉が頭に蘇り、セイシロウは思考停止した。  ずっと一緒にいるということは、この逃亡生活がずっと続くということだ。 「……それはダメだろ……」  アズのために、それは許されないことだ。  たとえどんなに一緒に居たくても。  暗く沈みそうになった不可思議な気持ちを奮い立たせるように、セイシロウは自分の頬を叩いた。 「修行しよ」  頭を空っぽにするには修行に限る。ちょうど目の前には雪山がある。厳しい環境で体を鍛え、精霊石の威力も制御することができるようにしておきたい。  久しぶりに雪中水泳でもしようかと肩を回していると、ドアがノックされた。 「誰だ?」 「セイシロウ……私」  セイシロウはドキッとした。  それはアズの声だったのだ。
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