セイシロウの長い夜

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「アズキ? どうした?」  セイシロウはドアに近づいて声をかけてみた。  柱時計を確認すると、夜の九時を過ぎた頃だ。女子が異性の部屋を訪ねてくる時間としては遅いと思われる。   「ちょっと眠れないの。少しで良いから話し相手になってくれない?」 「そっか」  セイシロウはその言葉を素直に受け止めた。  思えば、旅が始まってから初めて過ごす一人部屋の夜だ。彼女も急に心細くなったのかもしれないと彼は思い、ドアを開けた。  するといきなりアズがセイシロウに抱きついてきた。 「お、おい!」 「ありがとう、セイシロウ。あなたって本当に優しいのね」  あまりにも嬉しそうに頬を寄せてくるので、セイシロウは困ってしまった。 「そんな、大袈裟に喜ばなくてもいいだろ?」 「だって嬉しいんだもの」  可愛い態度にますます困惑していると、アズが抱きついたまま顔を上げた。  澄んだ湖のような青い瞳が熱っぽく潤んでいる。 「お願いがあるの、セイシロウ。聞いてくれる?」 「なんだ?」 「今夜、一緒に寝て欲しいの」  セイシロウは驚いて一瞬声を失った。 「それは……まずいんじゃないか?」 「大丈夫よ。一人で寝るより、あなたと一緒にいた方が安心するの。刺客が現れても倒してくれるでしょ?」 「それはそうだけど」 「今までだっていつも一緒に寝てたじゃない」 「いや、でも」  いつもはコージーもいた。二人きりでいたことはない。  戸惑うセイシロウの手を掴んで、アズは大胆にもベッドの方へと彼を引っ張る。 「やっぱまずいって!」 「いいじゃない」 「良くねえって。お前は皇女だろ?」  その瞬間、アズの表情のパレットに暗い色が足されたように見えた。 「いいの。どうせ私なんか……国のみんなには死んだと思われているんだから」  
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