セイシロウの長い夜

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 ◇  翌朝。  アズは知らない匂いのする布団の中でふと目を覚ました。  昨夜のことはほとんど覚えていない。  起きていたらまた余計なことをしてしまいそうだったので、睡眠効果のある薬草を煎じたお茶を飲んで早めに寝てしまったからだ。  おかげでスッキリ爽やかな朝を迎えられた。   「うーん」  伸びをしようとした時だった。  丸めた手の甲に何かが当たった。  それは弾力のある固くて柔らかくて人の肌のような温度の何かだった。   (っていうか、人間そのものじゃ?)  驚いてバッと布団を跳ね除けると、目の前に美しい体つきの若い男が無防備な寝顔を晒していた。 「せ……セイシロウ……?」  次の瞬間、アズは喉を潰しそうな高い音階で悲鳴を上げていた。 「ん……もう朝?」  セイシロウがうっすらと目を開ける。 「ど、どうして……あ、あ、あなたが、わた、わた、私の部屋に⁉︎」  セイシロウはパニックを起こしそうなアズの声をあくびで打ち消した。 「何言ってんだ? ここは俺の部屋だけど」 「はあ⁉︎ あなたこそ、何を言ってるの⁉︎ ここは私の部屋よ! 昨日飲んだスリープティーのカップがここに……ない! ないんだけど⁉︎」  サイドテーブルを二度見三度見するアズを見て、セイシロウは起き上がりクスッと笑った。 「だから、ここは俺の部屋なんだって」 「まさか……私が寝ている間に勝手に体が動いてこの部屋に来ちゃったってこと?」  セイシロウはやや目を丸くしてアズを見つめた。 「覚えてないのか、昨日のこと」 「昨日のことって何⁉︎ 自室で寝てたことしか覚えてないわよ! ああ、なんて失態なの⁉︎ 自分が何をやらかしたのかも覚えてないなんて……」  きっとセイシロウの部屋に無理やり入って、はしたなく彼を誘ったに違いない。記憶がない方がマシだったと思えるような愚かなことを言ったに違いない。  セイシロウがそんな自分をどんな感情で受け止めたのかと思うと、アズはどん底まで落ちた気分になった。 「ごめんなさい、もう本当に……私なんて最低よね。本当に死にた……」 「バカなこと言うな」  落涙しそうになった瞬間、セイシロウの手がアズの頭を優しく自分の胸に抱き寄せた。
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