コージーの申し出

2/2
前へ
/140ページ
次へ
 ◇ 「本当にアズは死んだのか」  悲しみに暮れる国王の声は広い玉座の間に暗色の響きを波及させた。  彼の一人娘が行方不明になってもう二週間になろうとしていた。   「ソーディアからやってきた刺客の仕業でありましょう。もう一刻の猶予もありません。ソーディアに反撃の狼煙を上げましょう」  王の前に片膝をついて首を垂れていた中年の男が顔を上げた。  魔科学研究所所長のゴズマックである。 「我々が長年研究してきた魔科学の技術があればソーディアを制圧することは可能です。あとは王のご命令だけ頂ければ」 「……分かった」  マジカント王は厳かに頷いた。 「ソーディアからの目に見えぬ脅威により、我が国は衰退の道を辿っておる。精霊の加護もこれ以上弱まれば反撃の機会も失われてしまう」 「仰るとおりであります。反撃に出るのは今しかないかと」  大臣が羽ペンと羊皮紙を王の前に差し出した。  重要な約定を結ぶ際の調印の儀式に必ず使われているものだ。   「これより我がマジカント王国は隣国ソーディアを敵対国と見做し、我が息女アズ=キラウィル=トリューセンの弔いのための戦を開始することをここに宣言する」    ゴズマックの口の端がわずかに吊り上がった。  彼が玉座の間を後にすると、廊下で待機していた研究所の所員が駆け寄る。 「うまくいきましたか」 「ああ。これでソーディアの資源を奪い取り、マジカントの──いや、我々の発展に役立たせることができる。そっちの首尾はどうだ」 「こちらも、どうにか間に合いました」  所員は背後を振り返った。  そこには目元を鋼鉄の仮面で覆った黒いマントの男が立っていた。  ゴズマックは満足そうに再びの笑みを浮かべた。
/140ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加