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「三宅さん、胃カメラの結果は、悪性の腫瘍で、ステージ3でした。手術を急いだ方がいいでしょう」
消化器外科の医師の淡々とした言葉が、俺の頭の中でこだました。「手術はもう少し考えたいのですが……」と言いかけた俺を、妻のかおりが制した。
「石川先生、すぐに手術してください」
眉をひそめた俺に、かおりは畳みかけた。
「だから、あれほど私が病院に行ってと頼んだのに。子どもたちは、三人ともまだ小学生なんだから。あなたの体は、あなた一人のものじゃないのよ」
俺は、それ以上抵抗するのをあきらめた。その場で、二日後に入院、三日後に手術と決まった。
俺は個室に入った。小さいながらも会社を経営しているので、これぐらいは痛くも痒くもない。
妻が夕方に帰り、病室でスマホをいじっていると、ノックの音がして、あの医師が入って来た。フルネームは石川一生。年格好は俺と同じくらい。最近この病院に赴任して来た、名医という評判の先生だった。
「三宅さん、ご気分は?」
「ああ、石川先生。まな板の上の鯉の心境ですよ」
医師は、薄笑いを浮かべて近づいて来た。
「三宅徹君、久しぶりだね。僕のこと覚えてる?」
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