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「あの男…、絶対許さない!」
朝のオフィス街をヒールを鳴らしながら駆ける。傍から見ればとんでもない形相だったのか振り返る人々はすぐに私から目を逸らした。
目的のビルに入りエレベーターに乗ろうと思ったが、エレーベーターを待つ人々を見て諦め、階段を駆け上った。
7階のフロアに繋がるドアを開け、アイツが働くオフィスに向かう。
「すみません…」
入り口付近にいた女性に小さく声をかけると、振り向いた女性は微笑み、
「田中さーん、奥さんがいらっしゃってますよ。」
アイツを呼んでくれる。
「あれ?あーちゃん、どうしたの?」
「ちょっとこっち来て。」
就業時間まで間もないが、これだけはどうしても言わないと気が済まない。
「あのねぇ、何度も言うけど、毎日私が起きたら既に朝食と気温に合わせた私の服の準備、お弁当まで用意するのはやめて!当番制にする約束でしょ?それに服くらい自分で選べるわよ。」
途中までは勢いに任せて声を荒げていたが、最後の方は我に返って拗ねるような口調になってしまった。するとアイツは笑って、
「毎日じゃないよ。それに昨日はあーちゃん仕事で帰りが遅くてあまり寝てないみたいだったから、疲れてると思って。」
「それで自分のお弁当忘れてちゃ世話無いでしょ!」
私はカバンから取り出した自分のより一回り大きなお弁当箱をアイツの胸元に突きつける。
「あ!鞄に入れたつもりだった…。わざわざ持って来てくれたんだね、ありがとう。」
バツが悪そうな笑顔を浮かべながら両手で受け取り、
「今日もお昼一緒に食べられそう?」
と尋ねてくる。期待に目を輝かせる様は大型犬のようで、背後にブンブンと揺れる尻尾まで見えてきそうだ。
「そうね、午前中の仕事次第だけど…、お昼の時間になったらまた連絡するわ。」
この顔をされると、怒りが吹き飛ぶどころか何としてでもお昼までに仕事を一段落させなければと思わされるのだった…。
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