9.学祭(終)

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9.学祭(終)

「し、篠原さん……このまま出るのはさすがに……」 「いいからいいから。大丈夫だって」 「で、でも……みんなに見られちゃうよ……」 「そんなに心配しないでよ。私に任せてくれたらいいの。それに、みんな似たようなことしてるからさ」 「う、うん……篠原さんがそこまで言うなら……」  克巳と渚の接客時間が終わり、二人は自由時間で学祭を楽しんだ。  着替える時間が惜しいことと、学祭でみんないろんな格好をしているから大丈夫、という渚の説得によって二人はメイド姿のまま校内を歩き回った。  お祭り行事というのもあり、確かにメイド以外にも様々な格好をしている人が多かった。 「うおっ!? 二人とも美少女!」 「胸大きくて可愛いとか……俺好み……」 「俺は背の高い子がいいな。モデルみたいで美人だ……」 「メイドさん……最高です!」  しかし美少女が二人歩いている姿は特別目立っていた。  誰も克巳が男だとは気づいていない。渚と同じく美少女と認識されており、行き交う人々の視線を集めていた。その数はメイド喫茶で仕事をこなしていた時以上である。 「な、何か見られているような……やっぱり変だったのでは……?」 「何してるのかっつん? 早く話題のお化け屋敷に行ってみようよ。他にも二人で行きたいところがあるんだから時間は無駄にできないんだよ」  渚に手を引っ張られ、克巳はつんのめりそうになりながらも追いかける。当たり前ではなかった関係は、いつしか当たり前になっていた。   ※ ※ ※  学祭が終わった。後片付けも終わり、クラスメイトのほとんどが打ち上げへと向かった。 「ふぅ……」  片付けられた教室。けれど祭りの残り香のようなものが漂う中、克巳は自分の席に座って一息ついた。  今日は本当に楽しかった。学祭はいつもただ時が過ぎるのを待っているだけだったけれど、今回はクラスの役に立ったり、他のクラスの出し物も見に行けた。克巳は充実感でいっぱいになっていた。  そんな彼の背中がつんつんと突かれる。 「かっつん、疲れた?」 「うん……あまり慣れないことだったし……」 「大丈夫。かっつんのメイド姿、超可愛かったから」 「それは大丈夫なのかな?」  今日はたくさんの人に写真を撮られた。クラスメイトからも克巳のメイド姿は好評だった。今までにないくらい、克巳はたくさんの人に話しかけられた。 「ねえ篠原さん」 「ん?」 「僕、かなりのコミュ障なんだよ……知ってる?」 「そうなの?」  きょとんとする渚。克巳は苦笑いである。  自分からは話しかけられない。話したとしても盛り上げられない。コミュニケーションがとても苦手だと克巳は思っている。  でも、渚は関係なく克巳に話しかけていた。彼女のペースに乗せられて、克巳は今日も今までしなかったことをした。  とても恥ずかしい……。しかし、それ以上にとても楽しかった。 「篠原さんはすごいね」 「かっつんもすごいじゃん」 「今日はがんばったね」 「お互いねー」  外から祭りを惜しむような声が聞こえてくる。そろそろ帰らないといけない時間だ。 「おかげで今日は楽しかったよ」 「私もかっつんと学祭できて楽しかったよー」 「僕も、渚……さんと、いられて楽しかった……」 「うんうん。……あれ?」  渚は目を瞬かせる。克巳は耳を赤くして前だけを向いていた。 「かっつん。今、私のこと……」 「……」 「ああもうっ! かっつんってば可愛いんだから!」 「うわぁっ!?」  渚が後ろから克巳の頭を抱きしめた。克巳ができたことといえば驚きの声を上げることくらいだった。  女子の匂いと柔らかさに、克巳はさっきとは別の恥ずかしさを感じた。  まともに抵抗できない克巳の耳元に、渚は唇を寄せた。 「……私はね、かっつんといっしょにいるだけで幸せなんだよ?」  その囁きに、克巳は固まった。 「あ、あの……どういう……?」 「さーて、そろそろ帰ろうかー」  克巳が何かを言うよりも早く、渚は彼を解放した。  そそくさと教室を出る渚を追いかける克巳。学祭が終わり、二人の距離は以前よりも縮まっていた。
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