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ターゲットの在処に目星をつけて、カラーボックスの引き出しを順番に覗いた。雑多な書類や手紙、CD、文庫本、カメラとアルバム。目的はそれではないのにプライバシーを盗み見ていることに、口の中が渇いてカラカラになっていく。早く見つかってくれ。
ソーイングセット、メイクポーチと手鏡、ヘアアクセサリー。あった。
白いベルベット地のジュエリーケースの蓋を開け、その中から目当ての品を手に取った。失くさないようポケットから取り出したハンカチにくるんで、それを再びポケットへねじ込んだ。
目的を達成したことに一安心し、そそくさとこの場から退散しようと部屋のドアへ向かって一歩足を踏み出した。
そのとき、ドアを隔てた玄関から、ガチャリという音が聞こえた。
踏み出した足が固まり、息を呑む。
息をひそめたまま耳を集中させると、二度ほどガチャガチャと音がしている。
想定外のことに、一瞬にして頭は混乱をきたし、額と脇からぶわっと汗が噴き出た。焦って左右を見回しても、ワンルームの部屋は閉ざされている。
オロオロしているうちに、玄関扉の開く音がした。
慌てふためき、唯一の逃げ場であるベランダの掃き出し窓を開けて、外へ飛び出した。塀に囲まれていたが、心の中で謝りながら物干し竿に足をかけて、塀の上へとよじ登る。
思ったより高さがあり、決死の覚悟で塀から地上へ飛び降りた。着地で足がびりりと痺れるほどの衝撃に、下にいた猫が驚いて飛び跳ねて、走って逃げた。当然だろう。大の男が塀から落ちてきたのだから。
目撃者が猫一匹でよかった。誰かに見られて通報されてはたまったもんじゃない。
しかしバレるのも時間の問題かもしれない。
足早に現場を立ち去り、貴金属店へ急ぐ。
後ろめたさとは恐ろしい。心なしか、道ゆく人々に見られている気がする。もしかして、本当に怪しげな男に見えているのかもしれない。
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