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段々と街灯も少なくなってきた、暗い道端の古びた自動販売機の明かりの前で美咲が立ち止まった。
「喉乾いちゃった。お水買うね」
「分かった」
美咲は、買ったばかりのミネラルウォーターのキャップを回すとマスクに手を掛けた。
そして素顔を晒すと、ゴクゴクと喉を鳴らして飲み干した。私は思わず呼吸が止まっていた。
「どう?アタシの整形うまくいったでしょ?」
まるで鏡に映したかのように私にそっくりな顔をした、美咲がニヤリと笑った。
その途端、私の中に込み上げてくるのは今まで感じたことないモノだった。腹の底で黒い渦が巻き起こり、細胞分裂を繰り返しながら増殖していく感覚を覚える。
「明日からアタシが花音だから」
「何いってんの!」
「あ、花音も怒れるんだ」
この、黒くて煮えたぎるモノが、『怒』?
胃の奥底から、今まで吐いたことない言葉が湧き出そうになる。
私はこの世に一人でいい。
同じ顔なんて要らない。
心の中を黒い靄があっという間に支配する。
ーーーーその時だった。
トラックのクラクションと共に、私の身体は強く突き飛ばされて宙を舞う。トラックのベッドランプが眩しくて目を細めながら周りの景色がスローモーションになる。
私は美咲を睨みつけながら、感情のままに最期の言葉を吐いた。
「美咲……ゆるさないから……」
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