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あぁ、やっぱーーーーだめか。
僕は開いた口を無理やり閉めると、諦めたように溜息を吐いた。
家族を失っても恋人を失っても僕にはやはり、『哀』の感情が分からない。それどころかやっぱり笑ってしまう。
今だって足をガクガクと震えさせながら、恐怖の眼差しで僕を見ている美咲が可笑しくてたまらない。
「あはははははっ」
僕は腹を抱えて笑った。
僕は花音が本当に大好きだった。
できることなら花音に『哀』というモノを教えて欲しかった。一度でいい、涙というモノを流して見たかったから。
『忘却は、よりよき前進を生む』
ニーチェの言葉がふと過ぎった。
そして僕が『哀』を知ることを諦めた瞬間だった。恋人や家族が居なくなっても『哀』がわからない僕は、もはや『哀』を知る術はこの世のどこにもないと思ったからだ。
もう『哀』を知ろうとすることも、大好きだった花音の事も忘れてしまおう。
今までだって『哀』を知らなくても生きてこれたのだから。
「花音……」
僕が花音が死んだことを聞いて笑ったこと。
彼女は許してくれるだろうか?
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