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僕は黒い感情に任せて、目の前の恐怖に歪んだ花音の顔をした美咲の首を締め上げていく。
──どのくらい力を込めていただろうか?
呼吸の止まった美咲は、目線が定まらないまま壊れた人形のように動かなくなった。
「え?……」
その瞬間、今まで感じたことがない高揚した気分と、目頭が奥の方から熱くなる。
込み上げてきた感じたことのない感情は、言葉にはならずに、丸い粒となり横たわる美咲の頬に転がり落ちた。
自らの掌で頬に触れれば間違いなくそれは、あたたかくて僕の目から溢れていた。
僕は袖で雑に涙を拭うと夜空を見上げた。
「花音、ありがとう」
僕は中身は違うが、愛する花音を自らの手で殺めてしまうことで初めて『哀』を知ったことに気づく。
花音を殺す事で、『哀』を知った僕を花音は、どう思うのだろう?どんな顔をするだろう?こんなこと、ゆるされやしないと僕の事を怒るのだろうか。
またニヤけそうになる口元を押さえながら、僕は闇夜をひとりゆっくりと歩き出した。
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