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7 縁は異なもの味なもの(※R18描写あり)
ちゅっ、と意外にも柔らかい感触。そんな薄い唇でも、ちゃんとそんなに柔らかいんだぁ、…じゃねえ、違う。
「ちょ、ちょっと待て!」
やっと自我が戻ってきた俺は、遅ればせながら抵抗。
でもその手をやんわり捉えられて、訝しげな目で見られた。……いや、訝しげにしてえのは俺の方だな?!
「何ですか、もぉ…。」
ちょっとムッとしてる様子で眉を顰めながら言うヤエガシ。いや、…え?何その態度。やっぱりお前もさっきの奴らと大差ないって事?
「顔見知りだからヤッていいって理屈?意味わかんねーんだけど!」
手首を掴まれたまま、ぎぎぎっ、と力比べみたいに抵抗してるけど、所詮はαとΩ。力の差は歴然な訳でぇ~。
余裕顔でいなされてる感がすごい…ムカツク。
「確かに俺は番を探してるけど、誰でも良い訳じゃないんで!!」
叫ぶように言うと、ヤエガシの動きがピタッと止まった。やっと言葉が通じたか…と思ったのが甘かった。
「そうですね。確かに俺が性急でした。じゃあ、ちゃんと言いますね。
俺、アンタが店に来た時からずっと目を付けて…じゃなくて、好きです。番になってください。」
「目をって…いや怖…。つか、好きですからっていきなり番にとかある?!ゼロ婚にも程がある!」
悲鳴に近い声が出てしまった俺に、今迄無表情か眉を顰めるしかしなかったヤエガシがにっこり微笑んだ。
……な、なにそれ…破壊力がすごい…。
不覚にもぼうっと見蕩れてしまった俺に問いかけてくるヤエガシ。
「好きなんで、番になってください。幸せ保証しますんで。」
「…はぃ…。ハッ?!!」
「ありがとうございます。じゃ、交渉成立って事で。」
「いや了承してない!待って。待って待って待って待って?」
「もう、何なんですよ。ワガママだなあ。俺、自慢じゃないけど好物件だと思いますよ。それに、」
ーー俺、こう見えて一途ですから。ーー
ヤエガシが言い終わると同時に、ブワッと何とも言えぬαのフェロモンが鼻腔を擽った。いい匂い…。匂いと言葉に、魔法をかけられたように頭の芯が痺れていく。
一途…。一途なαなんて、存在する訳ない。ないのに。最悪な遊び人α達に二度も騙されてるし、二度ある事は三度あるなんてことわざだってあるのに。
何で俺、真に受けたいなんて思ってるんだろう。
「あ…ッ。」
挿入されながら、頬に落ちてくる唇。俺の奥を味わうみたいにゆっくり揺れる、逞しい腰。クソ路君のを挿入れられてる時よりみっちりしてて、明らかに質量、でかい。きつい。でも、優しい。
正常位で俺を抱きしめて、髪を撫でてくれる。瞼にキスしてくれる。耳朶を食んで、中まで舐めて、好きって囁いてくれる。そうしながら指先は俺の乳首を摘んで転がして、撫でて、腹を撫でて…感じてガチガチに勃起してるペニスに指を掛けて、撫で回して、擦って。
人間の手がこんなに気持ち良くて、唇がこんなに優しいなんて、知らなかった。
激しく突くだけのセックスしか知らなかったから、そんな事しなくてもこんなに悦くなれるなんて、全然。
なんて多幸感なんだろう。
「あ、あ、…あっ…また…また、イく…。」
「うん、このまま出しちゃいな。」
「や…っう、」
ヤエガシの長い指の腹が、俺のだらしなく善がり泣いている亀頭を撫でて、竿を握り込む。ゆるゆる擦られて、全身がブルッと震えて引き攣る。ドロッと溢れる白濁。もう何度目かわからない、緩い絶頂。
「あ…あ…、あっ…。」
「可愛い…好きにイきな。…全部、塗り替えてあげる。」
「…ン…ッ、」
相変わらず俺の奥をゆるゆる突きながらそんな事を言うヤエガシ。
俺の体、さっきから変なんだ。暑くて、熱くて…。ヤエガシに触れられた場所からどんどん熱を持って、もうヤエガシの匂いしかしない。
俺の痙攣が治まって暫くすると、脚を持ち上げられて体をひっくり返され、後ろからの挿入に体勢を変えられた。ギシッ、ギシッ、とベッドの軋む音がさっきより大きく響く。後ろからって、さっきよりずっと奥迄挿入る。腹の中の圧迫感、すごい。でもヤエガシ、まだ一度も射精してないんだよな、と熱に浮かされた頭で思った。そろそろイくのかな…、とヤエガシの体にきゅっと抱きついてみると、中の質量がぐっと膨張したのがわかった。
「…あは…おっき…あうっ!」
「煽るの上手いね、フユさん。」
「や、なにぃ…あぁああ!!」
「そろそろじゃない?さっきからすごく甘い。」
今日イチ速いスピードでピストンが始まった。おかしい。気持ち良い。出し入れされるのって、痛いもんだとばっか思ってたのに。セックスなんてそんなもので、ずっと気持ち良いのはαだけだと思ってた。こんな、最初からずっと気持ち良いだけのセックスなんて知らない。気持ち良過ぎて自分が自分じゃなくなりそうで怖い。
「フユさん。ほら、開いてきてるの、自分でわかる?」
俺を揺さぶりながら、少し汗を滲ませたヤエガシが吐息混じりに耳元で囁く。ゾクゾクゾクッと全身に広がる何か。直腸の壁を擦りながら奥の入り口をこじ開けかけているヤエガシの長いペニス。
ーーーあ、来る…。ーー
思った途端に、ぶわあっと体の奥から熱が放出された。
ヒートが来たんだ。まだ少し時期には早い筈なのに、強制的に引き起こされた。
「…ひ…ゃ、あああああぁぁ!!!」
「…よし、来たな…。」
それ迄とは比べ物にならないような、渦巻きの中に放り出されたような快感の波。目がちかちかする。怖い、逃げたい、無理だ、でも怖い。自我が崩壊しそうな快楽。
ヤエガシの腕を必死に握る。抱きしめてて欲しい。もうこの男しか俺を救えないと、本能でわかってた。
「凄いな…こんなになるのか…ん…っ、」
ヤエガシの色っぽい掠れ声も遠くに感じる。こんなにゼロ距離で抱きしめられてるのに。捕まえてて、捕まえててくれないと、俺を。
「フユ。
出して、良い?」
切羽詰まったヤエガシの声に、頷かないでいられる筈がなかった。俺のうなじはもうずっと熱を持っていて、熱くて。
噛まれる瞬間を、今か今かと待っていた。
こくりと頷いた俺のうなじに、ヤエガシの熱い舌が這う。ぬるりと絖る舌が唾液を塗りつけて、それがまるで注射前の消毒みたいだなと思った。その後、鋭い犬歯の食い込む痛み。
「あ、うっ、つっ…あああ、」
でも痛みは直ぐに結合部のピストンで打ち消されて、快楽に支配された。αの唾液には痛みさえ快楽に転化してしまう成分でも入ってるのかと思う。
だって、今現在でも肉にくい込み続けている筈の痛みも、もう全然わからない。
「…はぁ、…ッ、種、付けるぞ…。」
何時牙を抜いたのかわからないヤエガシに、くぐもった声で息を荒らげて告げられる。
「つけて…っ、つけて、出してぇ…孕ませて…っ、」
「…言ったな。」
自分の声じゃないような甘ったるい声が、俺じゃないみたいな言葉を口にする。そう、俺じゃない筈なんだ。なのに、言ったなって…言ったなって…!!
直後、ぐっ、と腰を押し付けられる。一際膨張する、俺の中のヤエガシ。
流れ込んでくる、熱い何か。
「!!!」
最後の嬌声は、声にならなかった。記憶はそこで途切れてる。
目を覚ましたら午前4時。
嘘だろ。 しかもベッドの上には俺だけ…。
「…外泊しちゃった…。」
ラブホの天井を眺めながら呟いた俺。しかもコレ、ヤり逃げじゃね?噛み跡付けられて、多分、妊娠迄させられて。
あまりにチョロい自分にじわっと目頭が熱くなる。
今度は犬に噛まれたくらいじゃ済まなくなった。ヒートを起こして番になってからの中出しは、もう抑制ピルなんか意味が無い。今日って土曜日?病院…緊急避妊薬?でもあんな繁殖力激強そうなαの精子に効くかな…。
色んな考えが頭の中を巡る。大体、あのヤエガシってホントにマスターの店の厨房くんか?もしホントでも、店バックレてたり今日の事も知らないって言われたら…?
最悪の未来ばっか浮かぶ。
その時、ガチャッとドアの解錠音と、室内を歩く足音がしてヤエガシがベッドを覗き込んできた。
「あ、起きました?中出ししたから少し落ち着いてますけど、もう少ししたらまた波が来ますから、あと2日頑張りましょうね。」
「…へ?」
…確かにヒートは通常3日だから…まだ残ってるけど…。こいつ、俺をあと2日監禁するつもりか?
「必要なもの仕入れにコンビニ行ってきたんですよ。あ、大丈夫。この部屋連泊で話つけてるので。」
コンビニ袋(大)から、次々スポドリやらゼリー飲料やら食料やら、新しい下着、シャツ…諸々をテーブルの上に出しながら話すヤエガシ。
え、怖。何コイツ…。
「あと、電話、お祖母様から何度か着信あったんで取りましたよ。番になったご挨拶と、事情を話してお許しいただいてるんでご心配無く。終わったら送りがてらお祖母様にもご挨拶にお邪魔しますね。 」
「なっ…?」
開いた口が塞がらない俺、話し続けるヤエガシ。
「就職内定済みの東総大四年生です、って言ったら、そーりゃもう喜ばれて…。」
「…おい…。」
「ヒート来ちゃったんで、ちょっと早いですけどデキちゃってたらすみません、って言ったら、あらァ~って仰ってましたけど…あれってどういう感情だったんですかね?」
「…ちょ…なんて事言ってんだよ…。」
「どうします?俺はやっぱり最初は2人きりで暮らしたいですけど、お祖母様が心配って事なら同居でも…。」
「頼むから聞いて。俺の話聞いて…。」
2ヶ月後、俺は妊娠が発覚し、ぎっちぎちに固められた外堀を最後のワンスコップの土で埋められ、八重樫 風悠になってしまった。
番婚活に悩む人には呉々も言っておきたい。
縁は思わぬ方向から飛んでくるから気をつけてくれ。
因みに旦那、ヒートじゃなくても毎日俺を抱く。
一途の証明はわかったから、そろそろ勘弁してほしい。
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