5 俺、対α修行を思い立つ。

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5 俺、対α修行を思い立つ。

クソ路君との衝撃のお別れから二週間。自己嫌悪とα嫌悪に交互に陥ってるのもそろそろ飽きたので、ちょっくら気晴らしに遊んでみる事にした。 俺にαを選別する力が無いのは圧倒的な経験値不足が原因な事もあるんじゃないかと思ったからだ。Ωって事で色事に必要以上に構えて用心し過ぎていたから、ちょっとした恋愛経験も詰めなくて下らねー底辺野郎に引っかかったんじゃね? 2度の失敗の原因をそこに見出した俺は、αの多く集まると噂のバーに行ってみる事にした。友達に言うと絶対止められるから、内緒で。 一夜のアバンチュールなんかする気は無いけど、まあ…キスくらい迄なら? とにかく色んなαと話したり接してみるのって大事なんじゃないかと思ったんだ。そういう慣れが無かったからクソ路なんかにコロッと転がされたと思うんだよな。 という訳で本日金曜の夜、噂のバーに来てみた。そしたら何と、身分証提示でΩの確認が取れたらチャージ無料+ドリンク1杯サービスって。 流石、αが行きつけにする店ってだけあって、メニューに記載された料金は安くない。俺はさっさと免許証を出した。 案内されたカウンター席でオーダーしたジンフィズを飲みながら何気なさを装って広い店内を観察。 カウンターも重厚な作りだけど内装も落ち着いてて高級感満載だ。真ん中にピアノあるのって普通なのか?マスターんとこには無いけど。まあ、店の規模も違うから比較するのも何だけどさ。 店内客は、まだ開店間も無いせいか、ホールで埋まってる席は3、4程度。カウンターは俺だけ。因みに俺以外はαの2人連れかαとΩのカップルっぽい感じ。一人客のΩは珍しいのか、ちらちらと視線は感じるけど声は掛からない。えー、一人客のαは居ないのか。早く来過ぎたかなー、孤独…と思いつつチビチビ飲ってると、入口付近が少しだけ人の気配でザワついて、数人の客が入ってきた。 (α…。) 姿が現れたのは若い男が3人。 高身長、それぞれに整った顔立ち、身なり、匂い、場が華やぐ存在感。間違いなく全員がαだ。 αが3人も並んでると威圧感あるな~と思って見てたら、その内の1人と目が合った。俺は何となく身構えてしまって、目を逸らして自分のカクテルグラスに口を付けた。 「見ない顔だね、一人なの?待ち合わせかな。」 案の定というか、声を掛けてきたのはやっぱり目が合ったαだった。薄茶色の髪に目、少し異国の血が混ざってそうな顔立ち。イケメンだけどちょっと軽そうだ。コイツは駄目だ、と俺の脳内会議では却下の判定が下りたけど、今日は別に婚活相手を探しに来たんじゃなかったんだと思い出した。 慣れだ。αに慣れるのが目的なんだから。より多くのαと接してみて、慣れるんだ。場数を踏めば自ずと洞察力も磨かれる筈…と、時代劇とかで観るような修行に励む武士的な心境になって心を落ち着かせた俺は、小さく息を吐いた。 さあ、分厚いガワのジッパーをきっちり閉めて、っと。 「いえ、1人です。友達と待ち合わせしてたんだけど、来れなくなっちゃったみたいで…。」 きゅるん、と潤んだ目で心細げに見上げながら返事をすると、茶髪αの目が驚いたように見開かれた。 「そうなんだ。それは寂しいね。」 「このお店って初めてで、怖いからこれ飲んだら帰ろうと思ってて…。」 落ち着かない風を装ってそう言うと、隣の席に腰を下ろす茶髪。他の2人は、と茶髪の背後に視線をやると、どうやらホールのテーブル席に案内された模様。即別行動って…コイツやっぱ慣れてるな。いや、コイツら、か。 目の前の茶髪αは、俺の帰るという言葉に直ぐに反応した。 「帰っちゃうの?せっかくだからもう少し一緒に飲もうよ。」 張り付けた笑顔に既視感。 「えぇ…でも、僕、アナタの事知らないし…。」 と初心なセリフを吐いて、ちらっと上目遣いで茶髪を見ると、茶髪の喉がこくりと上下するのが確認出来た。 俺の元カレ2人と同じ人種だな、ダメだこりゃ。 「じ、じゃあ、名刺…名刺渡すよ。」 と、ジャケットの内ポケットを探り始めた茶髪。身元保証して信用を得ようとするのは基本なんだろうが、只なぁ…。コイツからは、最初から他の複数のΩの匂いが微妙にしてる。番じゃないんだろうが、複数って事はつまり、誠実な付き合い方をしてはいないって事なんだろう。お互いに割り切った関係って可能性も無くは無いけど、Ωの性質からして全員が全員割り切った関係を了承してるとは考えにくい。 単なる話し相手にしてもごめん蒙りたいタイプだ。 「…あ。ごめんなさい、ちょっと僕、ちょっと御手洗いに。」 面倒になって、名刺が出てくる前に一旦手洗いに立った。 「今日の分の抑制ピル飲んだよな…。」 バッグの中のピルケースを取り出してチェック。大丈夫だな。万が一ヒートが近い場合に飲み忘れてたりしたら、フェロモン分泌が抑えられずに近くに居る番無しのα達を刺激する事になる。そうして理性を失わせてしまった場合、痛い目を見るのはΩの方なので自己防衛の為にもピルの飲み忘れチェックは欠かせないのだ。 取り敢えず、飲んどきさえすればもしもの時の不幸な妊娠も防げる。 俺はピルケースをバッグにしまい、スマホの通知チェックをしてから個室を出た。 手を洗ってペーパータオルで手を拭いて、手洗いから廊下へ出る。 さて、さっきのカウンター席に戻るか、素通りして出口に向かうか。でも店の客用出入口は1箇所だけだから、出入りしたら見えるよなあ。追っかけて来られたらそっちのが揉めそうだから、大人しく戻って適当なとこで上手い事言って抜け出すか…と思って歩き出した時、背後から右腕を掴まれた。 「おい、アンタ…何でこんなとこに居る?」 「え?」 驚いて振り向くと、ぜんっぜん知らない、シュッとした目の超絶イケメンが立っていた。 ……誰?
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