3.あの日の約束

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「七五三の時の写真なんだけどさ。どうだい? かわいいだろ?」  そこに写っていたのは、黒髪をふっつりと肩のあたりで切りそろえ、緋色の着物を着た少女。膝に黒猫を抱き、ニタリと嗤ってこちらを見ている。薄く紅を引いた唇の色があの真っ赤な鳥居を連想させた。あの子だ。あの時の少女。何だか頭がクラクラする。彼は嬉しそうに娘の話を続けていた。 「その猫は娘が拾ってきてさ、どうしても飼うってきかなかったんだよ。娘にしては珍しく駄々こねて……どうしたの? 顔色悪いよ?」  ゾワゾワと冷気が背中を這う。不意に祖父の言葉が脳裏に浮かんだ。 ――神様との約束は決して破ってはならんからの。そんなことしたら罰があたる。  罰があたる。どんな罰があたるんだっけ。 「ねぇ、大丈夫?」  青ざめて言葉を失った私を心配そうに彼が覗き込んでいる。そうだ、祖父は言っていた。 ――きっとどこまでも追いかけてきてひどい目に遭わされるぞ。  追いかけてきたのかもしれない。あの時の少女が使いの黒猫を連れて。彼女はやっぱり神様? いや、そんなことあるはずがない。馬鹿馬鹿しい。その時彼のスマホが震えた。 「あ、ごめん。娘からだ」  そう言って彼は電話に出た。 「もしもし? ああ、うん。今一緒にいるよ。え? はいはい」  彼が私に向かってスマホを差し出す。 「君と話したいらしいんだ。ちょっと話してやってよ。そうそう、うちの娘いい声してるんだぜ。鈴を転がすような声ってやつだ」  私は震える手で彼のスマホを受け取った。まさか、ね。 了
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