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「七五三の時の写真なんだけどさ。どうだい? かわいいだろ?」
そこに写っていたのは、黒髪をふっつりと肩のあたりで切りそろえ、緋色の着物を着た少女。膝に黒猫を抱き、ニタリと嗤ってこちらを見ている。薄く紅を引いた唇の色があの真っ赤な鳥居を連想させた。あの子だ。あの時の少女。何だか頭がクラクラする。彼は嬉しそうに娘の話を続けていた。
「その猫は娘が拾ってきてさ、どうしても飼うってきかなかったんだよ。娘にしては珍しく駄々こねて……どうしたの? 顔色悪いよ?」
ゾワゾワと冷気が背中を這う。不意に祖父の言葉が脳裏に浮かんだ。
――神様との約束は決して破ってはならんからの。そんなことしたら罰があたる。
罰があたる。どんな罰があたるんだっけ。
「ねぇ、大丈夫?」
青ざめて言葉を失った私を心配そうに彼が覗き込んでいる。そうだ、祖父は言っていた。
――きっとどこまでも追いかけてきてひどい目に遭わされるぞ。
追いかけてきたのかもしれない。あの時の少女が使いの黒猫を連れて。彼女はやっぱり神様? いや、そんなことあるはずがない。馬鹿馬鹿しい。その時彼のスマホが震えた。
「あ、ごめん。娘からだ」
そう言って彼は電話に出た。
「もしもし? ああ、うん。今一緒にいるよ。え? はいはい」
彼が私に向かってスマホを差し出す。
「君と話したいらしいんだ。ちょっと話してやってよ。そうそう、うちの娘いい声してるんだぜ。鈴を転がすような声ってやつだ」
私は震える手で彼のスマホを受け取った。まさか、ね。
了
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