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耳をつんざく蝉の合唱を聞きながら祖父に手をひかれ山間にある小さな村へと向かう。そこに祖父母の家、母の実家はあった。
都会っ子だった私にとって山での暮らしは驚きの連続だった。満天の星を見上げては感嘆の声を上げ、都会では見かけることのない大きな虫を見ては悲鳴を上げる。じきに近所の子とも仲良くなり山を駆け巡って遊ぶようになった。無論母のいない寂しさはあったが時折電話で話すこともできたので毎日をそれなりに楽しく過ごしていた。
ある日、祖父と一緒にバスに乗り町まで買い出しに出かけた時のこと。この日祖母は母の病院で付き添っているため不在だった。帰り道、祖父の携帯電話が鳴る。
「あぁ。うん、うん、わかった。よかった」
そう言って祖父は電話を切った。電話は母の病院に行っている祖母からだったらしい。「お母さん、手術成功したってよ」
祖父が顔をくしゃっとさせて笑う。後に母は乳癌だったのだと聞いた。
「本当? じゃあ母さんもうお家に帰れるの?」
「いんや、まだしばらくは入院が必要じゃな。あと一か月ぐらいは爺ちゃん家で我慢しておくれ」
私は不承不承頷いた。ここでの暮らしはイヤじゃない。ただ早く元気になった母に会いたかった。そんな私の気持ちを見て取ったのか祖父が「そこの神社に寄ってから帰るとしよう」と言い出した。バス亭から祖父母の家へ向かう途中、古びた神社がある。真っ赤な鳥居がバスからも見えていた。
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