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〇
そして、運命の日がやってくる。
ぼくはそれが、ぼくの知らない場所でじりじりと、ぼくに向かって近付いてきていたなんて、もちろん少しだって気付かなかった。露ほども知らなかった。
タカ叔父と鰻を食べてから数日後のことだ。
ぼくは学校に来ていた。
季節に関わらず、休みの期間でも学校にはよく顔を出した。学校は大抵開放されていたし、普段の授業に来るよりも、休みの時の学校の方が遥かに好きだった。人が少なく、非日常的な雰囲気が日常にあって、いつもは遠目に見ていた教授と偶然学内で出会えたりすると、授業の時には見せない熱心さで授業に関係ない会話をしてみたりという変な楽しみもあった。
でも暇に任せて遊びに来ていたのは一年の時までだった。
ぼくは岡村に少しずつ引きずり込まれて、その頃には劇団の雑用をかなり本格的に手伝っていた。以前に小道具で作った肖像画があった。本当は有名な音楽家達の肖像画を描くはずだったのを、遊んで良いと言われたので、ぼくは学校の教授達の似顔絵にしてそれを描いた。単なる内輪受けとして軽い気持ちで描いたのだが、それをたまたま舞台を見に来ていた当の教授に見つかって、ぼくは事務部に呼びつけられた。説教されるのかと思えばそうではなくて、学校の月刊誌のイラストを描くように依頼された。最初は教員紹介の一、二コマの仕事だったのが、この頃には学内以外の著名人のイラストなども描かされていた。そんな仕事もあったし、劇団の舞台背景を描くのを手伝ったり、脚本を書かされたり。そんなこんなで割りと忙しく過ごしていた。
その日もそんな用事のために学校に来ていて、図書館で調べ物をしていた。岡村がフランスの民話を題材にした芝居をやると突然言い出して、そのための調べ物だった。ぼくが悪魔や妖精のことで頭をいっぱいにしている所に、岡村が青い顔をしてやってきた。
「死神アンクー」
ぼくがその顔を見てそう呟くと、岡村はそんな言葉は聞こえなかったように話し始めた。
「大変なんだよ。さっき学食にやってきて、今とりあえず、佐々木教授の部屋に行ってるんだけど」
「なにが?」
「何がって、だから、高田メグミが」
「え?」
ぼくは椅子から立ちあがった。
「彼女が来てるの?」
「いや、違う。ううん、来たんだよ」
「は?」
「だから、とにかく今、教授んとこにもう着いてるはずだから」
「なに言ってんの、お前」
意味が判らず眉をひそめていると、岡村はとにかく来いと言って、ぼくの腕を引っぱって走り出した。ぼくは本をテーブルに出しっぱなしのまま走らされた。図書館は独立した建物だ。そこから教授のいる校舎の間には講堂が建っている。その距離を走るのはかなりきつかった。
息をきらして佐々木教授の部屋に入ると、女の子の劇団員が三人と、教授がソファーに座っていた。
ぼくらを見てみんなが立ち上がる。何故か女の子の目線が厳しくぼくに刺さってきた。それを不審に感じて、その後でテーブル横のベビーカーに目が行く。岡村がぼくの背を押して、ぼくは紺色のベビーカーの前に立った。美由紀という名の子が言った。
「信じられない、芹沢くん」
ぼくより少しだけ背の高い、髪が赤くて痩せぎすの子だ。いつもは冗談ばかり言って笑ってる子から鋭く睨まれ、ぼくは少したじろぐ。それを佐々木教授が弱り顔でなだめてくれた。
「まあ、まずは話を聞かないとね」
「あの、どういう事なんでしょうか?」
「それはこっちが聞きたいわよ!」
美由紀の後ろの加奈子が叫ぶ。それを岡村が手を上げて制し、ぼくに言った。
「俺が話すよ。メグミがさっき来たんだ」
「それで?」
「それで、この子を」
岡村はベビーカーの取っ手に手を置いた。
「お前の子だって」
「え……」
「そう言って、置いていった」
「置いて、いったって……」
ぼくはベビーカーを覗き込む。可愛い赤ちゃんが目をキョロキョロさせて、ちっちゃな手を上に動かしていた。
ぼくの子?
「学食にいるままじゃ野次馬が煩いから、とりあえず先生の部屋に入れてもらったんだ。すみません、先生」
「いや、そんなことは良いんだよ。なあ、芹沢くん。君、心当たりがあるのかね、こういう事をされる」
ぼくはメグミのアパートの情景を思い浮かべる。あれは秋頃のことだった。時期的には合っていると思った。だからと言って、いったいどういうことなのかすぐには理解できなかった。
「芹沢くんの方がそういう事したんでしょ」
美由紀が吐き捨てるように言った。
ぼくはしゃがんで、赤ちゃんの顔を近くで見る。淡いピンクの服を着ている。
ぼくの子だって?
「誰か、判るように話してくれないかな?」
「話して欲しいのはこっちよ!」
また加奈子が叫んだ。
ぼくは言う。
「煩いよ」
その言葉で、部屋の温度が何度か下がったように、自分でも感じた。
瞬時に出来上がった部屋の静かさが、耳に突くようだった。
でも、本気でそう思った。
煩い。
「静かに話してよ。赤ちゃんが泣き出したりしたらどうするの。順序立てて誰か話ができる人はいないの。ぼくだって、突然怒られたんじゃ訳が判らないよ」
ぼくは赤ちゃんの腕を、服の上からそっと触ってみた。右手の人差し指で軽く。それでもその温かさはよく感じられた。
ぼくは教授の顔を見上げる。今一番冷静なのは、彼だろうと思ったからだ。佐々木教授はぼくの気持ちを判ってくれたのか、一つ頷いて、言った。
「この子の母親がまず、この子を連れて現れたんだね?」
一番奥にいた女の子が返事をする。
「はい」
京子という子だ。
「母親は君たちの知り合いだと言ったね。名前はなんだったかな?」
「高田メグミさんです」
「高田メグミさんがこのベビーカーで赤ちゃんを連れてきて、レストランに現れた」
「はい」
「最初に彼女と話をしたのは、京子くんだと言っていたね」
「はい、そうです」
「その時のことを話してあげなさい」
「はい。私は一人で食事をしていました。入口の方でざわめくような気配があって、少しして声をかけられたんです。振り向いたらベビーカーを押している高田さんでした。高田さんとは友達ですが、最近は連絡が取れなくて会うことがなかったので驚きました。それに赤ちゃんにも」
彼女は赤ちゃんを見て話をしていた。
「高田さんは、芹沢くんが来ているはずだけど何処にいるかと尋ねました。私は判らないと答えました」
「彼女は芹沢くんが今日学校に来ていることを知っていたのかい?」
「そのようでした」
岡村が教授に向かって手を上げた。教授は頷いて、岡村が言う。
「昨日、高田メグミさんから僕に連絡がありました。芹沢が最近なにをしているかっていうことを聞かれて、次の芝居の脚本の草案を頼んでいるという話をしました。今日、芹沢が学校に来る予定だということは、その時話しました」
「なるほど。じゃあ、京子くん、続きを頼むよ」
「はい。彼女は少し考えて『ちょうど良かった』と、言いました。私は赤ちゃんのことを尋ねました。そうしたら彼女は、この子は自分の子供だと答えました。私が驚いていると、レストランに加奈子と美由紀が入ってきました。この二人も高田さんとは顔見知りです。二人が私たちを見つけて傍に来て、私と同じように驚いて……」
気を付けて淡々と話していた京子だったが、そこに来て声が淀んだ。頭の中を整理するように、頬に手をあてる。
美由紀が京子を見ながら言った。
「私たちも芹沢くんのいる場所は判らなかったんです」
京子は美由紀に向かって頷いて、話を続ける。
「高田さんは、この子を芹沢くんに引き渡してほしいと言いました。私は理由を尋ねました。そうすると彼女は、この子の父親は芹沢くんだと言いました。そして、この子は、芹沢くんへのプレゼントだ、とも言いました。私たちは状況が判りませんでした。彼女が何をしに来たのかもすぐには理解できませんでした。それで彼女はこう言いました。芹沢くんは私のことを愛してはいないから結婚はできないと言われた。だからこうするしかなかった。彼は全て判っているから、この子を引き渡してくれるだけでいい。そういう話になっている、と。そして、彼女はこの子を残して帰っていきました」
「君たちは引き止めなかったのかい?」
「今思えば、芹沢くんを呼んでくるまで引き止めておいた方が良かったような気はします。でも、突然のことで、気が動転していました。逆に彼女は冷静でした。まるで当たり前のことをしているという感じでした。だからとにかく、早く芹沢くんにこの子を引き渡さないといけないと思いました。でも、近くにいた生徒達が赤ちゃんを珍しがって集まってきたので、レストランから出なきゃいけないと思って、それで、先生のこの部屋に」
加奈子が言う。
「私たちは講堂を借りて稽古をしてたんです。岡村くんはまだ講堂に残ってたから、私は岡村くんに、芹沢くんが何処にいるのか聞きに行きました」
岡村が言う。
「それで僕が、図書館にいる芹沢を呼んできました」
そしてぼくは、今ここにいます。
ぼくは左手で頭を触りながら立ち上がった。教授がぼくに言った。
「大体の流れは判ったかね?」
「はい」
「じゃあ、君の言い分を聞こうか?それとも、このまま帰るかい?」
ぼくはしばらく、教授の顔を見つめていた。多分ぼくは困った顔をしていたと思う。実際、困っていた。まだ上手く頭が回っていなかった。ぼくは目を伏せ、しばらく黙っていた。
そして、女の子達を振り向いた。
「ごめん。君たちに迷惑かけたんだね」
「そんなのどうだっていいわ。ねえ、メグミが言ったことは本当なの?」
ぼくは首を横にも縦にも振れないまま、美由紀を見ていた。ぼくは自分が輪ゴムの中のアリンコになったような気がした。ぐるぐる動き回って、なかなかそこから出られなかった。
「どうして黙ってるのよ」
「ぼくは」
やっと口を開けた。
「彼女が今日、ここに来るなんてことは知らなかった」
「それで?」
加奈子が先を急がせ、それから京子が言う。
「メグミは私の友達よ。ちゃんと答えて。メグミは冷静だったけど、あなたと結婚できないって言った時だけは、泣いてたわ」
彼女が泣いてた?
ぼくが結婚してくれないと言って?
彼女が?
「君は、彼女の親友なの?」
「そうよ。高校の頃からの友達よ」
「そう」
京子は、メグミの親友。
ぼくは赤ちゃんを見る。いつの間にかに寝ていた。まだ薄い眉毛だけど、ぼくの眉の形と似ていると感じた。そして、可愛いとも感じた。
ぼくは京子を見た。
「彼女が泣いたのは、嘘だと思う」
女の子は一様にぼくを睨んだ。でも、ぼくはそう言った。
「涙は嘘だよ。彼女は女優だから。でも、彼女が言ったことは信じていいよ」
「認めるの?」
「信じていいよ」
「何よ、その言い方。はっきりしなさいよ」
「ごめん。認めるよ」
岡村が信じられないというように、ぼくの肩を掴まえた。
「お前」
「ごめん。認める。だから、今日は帰っていいかな。さっきも言ったけど、今日ここに来るなんて、思ってもなかったから、ぼくも気が動転してる」
ぼくが言い終えないうちに美由紀がドアへ向かって歩いた。加奈子も続いて、二人はドアを開けて出て行く。最後に京子がぼくの前に来て言った。
「メグミは良い子よ。私は君のこと、許さないよ」
そして、ぼくは頬を平手打ちされ、京子が最後に部屋を出て行った。
ぼくは打たれた左頬に手をあてて、ソファーに座りこんだ。
「お前、本当なのか?」
ぼくは、ぼんやり岡村を見上げた。そして、心配そうにこちらを見下ろす佐々木教授を見た。
「先生、すみません、ご迷惑をおかけして」
教授は腕組みをして、唸り声だけを出した。
「もう少し、ここに座ってていいですか?」
教授は小さく三度頷く。
「おい」
岡村が苛立つ声を出した。
「お前、本当なのか?」
「なにが」
「彼女が言ったことがだよ」
「ぼくが結婚してくれないって?」
「ああ」
「そんな話、聞いた事もないよ。子供の話なんて寝耳に水だよ」
「お前……」
「なあ、この子、本当にぼくの子なの?」
岡村は顔をしかめた。
「俺に聞くなよ」
佐々木教授が自分の机の椅子を引き寄せて、疲れたようにそれに腰かけた。
ベビーカーを押して歩くぼくたちを、通りすがりの学生達は物珍しそうに見ていた。チラチラ見たり、露骨に覗いたり、その反応は様々だったが、まったく気にしない人もいた。
岡村は言う。
「なあ、本当に連れて帰るの?」
「だって、置いてく訳にいかないじゃん」
「だって、訳判んないんだろう、結局」
「心当たりはあるよ。ただ……」
「妊娠したとは知らなかった、か」
「うん」
「お前、奥手な奴だと思ってたのに、やることやってんだな」
「お前、いいな」
「は?」
「先刻と比べると、相当落ち着いてるみたいだ。そんなこと言うなんて」
「ああ。だって、他人事だもん」
「だろうね」
「お前は落ち着いてないの?」
「お前に判る?訳も判らず子供が出来た男の気持ち」
「判らんね」
「教えてやる。全然落ち着けないよ」
岡村は鼻で笑った。
「冷静に見えるけど?わざわざ図書館によって、本まで片付けてさ」
「だから冷静って話にはならないよ。何も手に付かなくて、取り合えず思いあたる事をやってるだけかもしれない」
「ふーん。じゃあ、冷静を取り戻した岡村くんからの提案を聞いてみる?」
「一応、聞こうか」
「警察行ってもいいんじゃないの。この場合」
「警察?」
「お前の子だって証拠もなしに押し付けられたんだぜ?もしかしたら、お前の子供じゃないかもしれない。お前のお人好しにつけ込んでるのかもしれない。こんなやり方聞いたことないよ。そっちの可能性の方が高いんじゃないのか?それなら、メグミはただ子供を捨てただけじゃないか。育児放棄どころじゃないよ、これ」
「ぼくの子じゃないと思う?」
「判らないけどさ。それにしても、こんな事ってありかよ」
「見れば見るほど、ぼくに似てる気がするんだ」
校門にたどりつき、ぼくたちは立ち止まる。赤ちゃんはまだ眠っていた。岡村はそれを覗き込んで言う。
「眉毛そっくり」
ぼくは決定的なことを指摘された気がして、それなりにショックだった。
「でも、お前の子だったとしてもさ」
「面倒だよ、警察なんて」
「でも、これからもっと面倒になるんじゃないの?メグミの家知ってるのか?」
「うん。だけど、まだそこにいるのかは疑問だよ。アパートだったから、学校も休んで子供を産んだって事になると、実家に引き上げたかもしれないし、実家までは知らない」
「実家に戻って産んだ子を、捨てるのか?」
ぼくは黙った。捨てる、という言い方が、胸に刺さる感じがした。なんとなく痛い。
「判らないけど、とにかく今、放り出すわけに行かないよ」
「お前、その子を自分の家に連れて帰れるの?はっきり言って、驚くよ、親。驚くどころじゃないよ、きっと」
「だろうけど、仕方ないよ。帰ってゆっくり考える。そうするしかない。今のとこ思いつけるのは、それだけ」
「俺、ついてってやろうか?家まで」
「ありがとう」
でも、ぼくは首を横に振っている。
「お前、稽古中だろう。リーダーが急にいなくなったら、みんな困るよ」
「ああ、まあ、女子がもう、話してると思うけどね」
「いいよ。荷物とかあるんだろう。それより、脚本だけど」
「大丈夫。まだ先の話しだし、急がなくていいよ。なんなら他のやつに頼むし」
「うん。そっちの都合に合わせるけど、ぼくがやるにしても、少し時間が欲しいから」
「判ってる。時間はあるから」
「じゃあ、連絡する」
「ああ。俺もメグミのこと少し聞いてみるよ」
「あんまり追求しなくていいから。そのうち、きっと本人に会って話さないといけないし」
「そうだな。じゃ」
岡村は手を上げて門の内側に姿を消した。
ぼくはベビーカーを押して歩き出した。救いは赤ちゃんが眠ってくれていることだ。起きないうちに、しかるべき場所に落ち着かないと。
しかるべき場所だって?
バッカじゃない。
今ぼくが唯一持っていないもの。
それがそれだよ。
赤ちゃんが起きて泣き出さないうちに、そのありもしない場所に行かなけりゃならない。
何処に向かっている訳でもなかった。ただぼくは足を交互に動かして、前に進んでいるだけだった。腕に少し力を入れて、多少前傾姿勢で歩いているだけだった。学校から離れているだけだった。あるわけのない場所に向かって。
ぼくは学校前のバス停で一旦立ち止まり、バス停の時刻表を一瞥して、そしてまた歩き出す。ちょうど良い時間がなかったからじゃない。バスにベビーカーを乗り込ませる術を知らなかっただけだ。こんな大きいもの、どうやってバスに乗せるんだろう?そう言えば、ベビーカーがバスに乗っているのを見たことはある。頻繁には見かけないけど、何度か見たことはある。でも、ベビーカーを抱えてステップを上っている人を見たことはなかった。ぼくの知らないところで、世の中の人はひどく面倒な目に合っていたようだ。こんな大きいもの抱え上げるなんて、しかも降りる時には再びそれを抱えて降ろさないといけないっていうのに。
なんて面倒なんだろう。そして、なんて不親切なんだろう。もっとバスの昇降口は大きくするべきだ。中の通路だって広くするべきだ。座席が減るというなら、バス自体を大きくするべきだ。そもそもあの車椅子マークの付いてる優先席って何?車椅子使ってる人がバスに乗ってるのなんて見たことない。松葉杖の人なら頑張って乗れるだろうけど、あの狭いバスにどうやって車椅子が乗れるの?車椅子でジャンプしろて言うのか?マウンテンバイクみたいに?アホか、まったく。誰が手伝うの?他のお客さん?仕事でクタクタになってるお客さん?それとも運転手?途中で渋滞にはまって、時間が押して、先を急ごうとしている運転手が、わざわざ手伝ってくれるの?でも見たことないよ。
なんて気が利かないんだろう、この世の中は。
何もないじゃない。
何でもあるフリして、何にもないじゃないか。
歩きながら、ぼくの脳裏に、半地下の薄暗い隠れ家がぼんやりと浮かんできた。
ぼくは階段の上からそれを見下ろす。
プレートがライトで照らされている。
それはバーだ。
店の名は「V O I D」。
タカ叔父の店。
ぼくの足に少し力が入った。運動し過ぎた後のように、自分の意思で動かせないような感覚だったのが、普通に戻った。自分の意思で歩いている感じになった。
ぼくはそれから十分くらい歩いて、電車の駅にたどりついた。広い幅の高い階段を見上げる。何だよこれ。こんなに高かったっけ、この駅の階段って。そもそもここ、高架線だった?
溜め息をついて、ぼくはふと視線を階段の傍らに向けた。そこにはエレベーターがあった。ぼくは咳払いをして、エレベーターのボタンを押した。
たまには気が利いている。
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