息の根をとめて

再会

「あなたの息の根、止めに来ました」

　雨が降る街を歩いていると、ふと、背後から誰かにそう言われた。
　同時に、右腕もしっかり掴まれる。
　前へ進もうとしていた両足を、ぴたりとその場にとどめた。
　周りには、色とりどりの傘を差した人たちが、前から後ろから、近づいては追い抜いていく。灰色のフィルターがかかったような都会の街の中。みんなそれぞれの人生を歩むのに忙しそうで、自分以外誰一人、さっきの殺害予告には気が付いていないようだった。
　小ぶりの雨がしとしと、傘を差していない頬や髪を濡らしていく。
　右手首を掴む誰かの手のひらが、じんわりと、濡れた身体を温めている。
　その手の感触や体温に、覚えがあった。背後に立つ人間の正体が、その姿を見なくても鮮明に脳内に浮かび上がる。
　ドッ、ドッ、ドッ、ドッ。
　心臓の鼓動が、はっきりと、煩いくらいに、自分の中で響いていた。
　一度大きく息を吸い込んで、呼吸を整えながら、ゆっくり後ろを振り返った。