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「あははっ」
「はははっ」
森の中を駆け回って、私が笑い彼も笑う。
木漏れ日のようにキラキラ輝くものだけを瞳に映して、何も知らなかった幼い頃の私たち。
「また会えるといいね!」
「すぐに会えるよ、セリーヌ」
「約束の指切り…」
「いらないよ、また会えるから」
「うん!また会おうね、エド!」
蝉の鳴き声をいつもより近くに感じた夏。私たちは夢のような2日間を過ごしお別れした。
再会まで15年もの歳月を要するなんて思いもせずに。
◆
私とエドワードがこれまで再会できなかった理由は、両家の根深い因縁のせい。
15年前、私の住む西地区とエドの住む東地区は領地の境界線を発端とし、領主同士に軋轢が生まれた。
領主の孫である私と彼が出会った日も大人たちは難しい話をしていたらしい。
けれど意見はまとまらず対立だけを深め、今に至る。全土に広がった摩擦のせいで度々小さな争いを起こしながら。
*
ある日、私の前に予期せずエドが現れた。立派に成長した、でもあの頃の面影を残した顔立ち。祖父の代わりに使者として来訪とのこと。
彼は役目に夢中で私には目もくれない。忘れられてしまったんだなと、ちょっぴり沈んでいたとき、夕食を兼ねた形式的な歓迎会の終了間際に呼び止められた。
夜空の下のバルコニーへ促され、長身に続く。
対面した彼は真顔で語りかけてきた。
「お美しくなられた」
「あなたも、素敵な殿方に」
「…………」
「…………」
22歳になった私たち。互いにもう子供じゃない。昔のように無邪気に話し合えるほど……。
あ、私…あの時の記憶をいまだ鮮明に覚えてるんだ。
「セリーヌ殿、オレは祖父の代理で来た。あなたもご存じだろう?領地の件だ」
「ええ、受け入れられないとお父様は常にお話…」
「あなたとは争いたくないな」
寂しそうに言って、背中を見せた。あの頃とは違う、広い背中。
「あなたといると童心に戻れる。また会って懐かしい話など交わしたいが、約束とは縁がない。またも15年後では堪らない」
最後は冗談めかした声。振り向いた顔から愁いは消え、今度は爽やかな笑顔。記憶のままの笑顔だった。
*
翌日、お父様たちとの会談を終えたエドは午前のうちに自分の領地へ帰った。
その夜、私は自室でぼんやり彼のことを考えていた。
童心に戻れると言っていた。きっと彼は早い時から大人に領地のいざこざ話を聞かされて育ったんだ。
そして領地のため一族のため即戦力になれるよう木登りや川遊びはやめて成長してきたのだろう。
私との遊戯が唯一の子供らしい思い出なのかもしれない。
可哀想…。私に何かできればいいのだけど、エドとは簡単に会えるような関係ではない。
でも約束にまつわる些細な会話を覚えていてくれて、驚きだったし嬉しかった。
私もまた会いたい。ゆっくり話がしたい。
けれどその願いは現実に打ち消され、夢見たものとは異なる形で実現した。
彼は鎧姿。
大きな争いが始まった。
終
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