帰省

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帰省

花見の一件から数日後。理人は自宅のソファに腰掛け、昼休みに受け取った探偵からの報告書を読みながら深い溜息を吐いた。 蓮が何を考えているのかさっぱりわからず、今回の件の証拠集めをしようと目論んだのだが、蓮が今回の件に関与していると言う動かぬ証拠は未だに見付からないまま。 瀬名が最後に飲んでいた酒の成分を調べて貰ったが、睡眠薬などの成分は発見されず、毒物の反応も出なかったらしい。 つまり、蓮に何かされたと言う線は薄いと言う結論が返って来た。 「……参ったな」 蓮が提示したタイムリミットまであと一週間。それまでに有力な手掛かりを見付けることが出来るだろうか。 「あの、理人さん……」 思わず頭を抱えそうになった所に、背後から声をかけられた。 ドキリとして振り返ると、瀬名が何故か申し訳なさそうに立っている。 一体どうしたと言うのだろうか? まさか、何か勘付かれたか? 「なんだ?」 「実は、今度の日曜に姉さんがこっちに来るみたいなんです」 「……は?」 一瞬思考が停止した。今、なんと言った? 姉が、来る? 理人の脳裏に以前ちらりと見掛けたモデルのような美人な女性が思い浮かぶ。 彼女に関してはあまりいい思い出が無い。 そう言えば以前、彼女は瀬名の事を溺愛していて甲斐甲斐しく世話を焼くと言っていなかっただろうか。 「僕が引っ越したという事を知って、観光ついでに是非新居を見てみたいと言い出して……。一応、同棲している事は話すつもりですが、家に連れてくるのはやっぱり迷惑ですよね?」 瀬名が不安そうに見つめてくる。 いずれは彼女にも、瀬名の両親にも会って欲しいと頼まれてはいるものの、今はまだ彼女に会う自信が無い。 それに、蓮が黒幕であると言う証拠がない以上、約束の日取りもそろそろ決めなくてはいけない。
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