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そして、たっぷり数秒間思考を停止させた後、無理やり絞り出したような声を出す。
「冗談、よね?」
姉は信じられないといった表情で首を横に振った。
それもそうだろう。溺愛していた弟からの突然の告白。動揺しない方がおかしい。
「冗談なんかじゃないよ。僕は本気だ。本気で……理人さんを好きになったんだ」
瀬名の真剣な眼差しを受けて、真奈美はグッと唇を噛み締めた。まるで死刑宣告を受けた罪人のような絶望に満ちた表情を浮かべている。
瀬名を愛してくれているからこそ、真奈美は弟の言葉を受け止めきれないのだろう。
「急にごめんね? 今すぐに会って欲しいとは言わない。だけど、いつか会うことになるだろうから、驚かせる前に伝えておきたかったんだ」
瀬名の言葉に、真奈美は何も答えず黙ったままだった。
この様子だと、まだ暫くは立ち直ることが出来なさそうだ。瀬名もこれ以上彼女を混乱させたくなかったので席を立つと会計を済ませて店を出た。
梅雨間近の湿った空気が肌に纏わりつき、不快指数を上げていく中、未だに現状が受け止めきれない様子の姉を支えながら歩いていく。
ふと見上げた空にはどんよりとした厚い雲が広がっていた。
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