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act.2 支配
ぼんやりとした焦点が徐々にはっきりしてくると、そこには見慣れぬ天井が見えた。
――此処は一体何処だ? 思考がはっきりしてくるにつれて、段々と状況が掴めてくる。
確か、会長と話している最中に変な男に捕まって、それから……そうだ、薬品を嗅がされたのだ。
身体を起こそうとして、自分の手がロープか何かで後ろ手に縛られていることに気が付いた。
一体、何が起きているんだ?
焦燥感に駆られ恐怖心が沸いて来る。落ち着け、冷静になれ、と自分に言い聞かせ深呼吸を繰り返しながら視線を上げて周囲の状況を確認する。
いくつもの棚に様々なファイルや本が整然と並び、壁一面の巨大な書架にはぎっしりと書籍が詰め込まれている。資料室かなにかだろうか? 窓はなく、事務的な電灯は設置してあるものの、部屋の明かりは灯されていない為、室内は仄暗かった。
「……へぇ、案外冷静なんだな。ケンジは泣いてパニックに陥ってたのに」
不意に背後から声がして振り返ると、暗闇の中で人影が動いた。声の主はどうやら先程の悪魔の様な男らしい。
「アンタは……」
「僕は御堂蓮。この学校の生徒会長だ。お前も顔くらいは見た事あるだろう? 鬼塚理人君」
「……っこんな所に連れて来てどうするつもりだ!?」
ぎりっと歯噛みして睨み付けると、ふふふと楽しそうに笑う。だが、眼鏡の奥の瞳は笑っておらず得体のしれない恐怖が襲ってくる。
――この男は危険だ。関わってはいけない。
本能的にそう感じた。
だが、まだ体内に薬が残っているのか、全身に上手く力が入らない。そんな理人の様子を気にする様子もなく蓮は愉しそうに口元に冷酷な笑みを湛えたまま理人の目前にしゃがみこんだ。
顎を掴まれ強引に上向かされて至近距離で顔を覗き込まれる。
ふわりと漂うシトラス系の香りに一瞬ドキリとしたが、すぐにそれは嫌悪感で一杯になった。
眼鏡の奥の深い闇を湛えた双瞳が眇められ、じっくり観察するように全身を見られているのがわかる。服の下まで見透かされているような気がしてなんだか落ち着かない。
「その反抗的な目。いいね、気に入った」
唇の端を吊り上げて、満足げに呟くと蓮はいきなり理人の上に圧し掛かって来た。手を後ろに縛られている身体は簡単にバランスを崩し床にどさりと倒れ込む。
背中を打ち付けて痛みに眉をしかめると、すかさずその上に覆いかぶさってきた。抵抗する暇もなくシャツのボタンを引きちぎる勢いではだけさせられ、胸元を露わにされる。
「っな、何すんだよっ!! やめろっ!!」
突然の暴挙に慌てて身を捩って逃れようとするが、両手を拘束されて、強い力で床に縫い付けられて思うようにいかない。
「随分鍛えてるんだな。こりゃ、榎本たちが一撃でやられるわけだ」
理人の抵抗など意に介さないとでもいうように、蓮は理人の腹筋の割れ目をなぞるようにゆっくりと指先で触れてきた。
「……触るな馬鹿っ!」
「馬鹿? フッ、まぁいい。これからたっぷり可愛がってやる」
「ふ、ふざけるな! 何を言って……」
「こんな状況でもまだわからないのか? アンタは俺に強姦されるんだ。――犯す……と言った方がわかりやすいか?」
「――な……っ!?」
あまりにも衝撃的で非現実的な発言に理人は絶句した。
こいつは頭がおかしいのか? それとも冗談なのか……いや、この状況でこんな悪質な嘘をつく意味はないはずだ。だとしたら、これは現実――?
「理解できたか? 今からアンタが感じたことも無いような快楽を与えてイかせてやるよ」
銀色に輝くフレームが冷たく光り、レンズ越しに覗く漆黒の瞳が怪しく揺れる。
狂気じみた声とその妖艶な色香に、ぞくりと背筋が震えた――。
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