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あのときの狼。その一言に、意表を突かれる。
「え? 誰?」
「どうもぉ! あっちでお世話になった、魔王でーす!」
「……はぃ?」
ギャルみたいなピースと笑顔で自己紹介されて、言葉を失う。自称魔王はツインテールを揺らし、早口でまくしたてた。
「私ぃ、婚約破棄されて自棄起こして暴れてたら魔王に祭り上げられちゃって! 勇者に倒されるまであの陰気な城で暮らさなきゃいけなかったから、解放してもらって助かったわぁ!」
陽気に話し、けらけら笑う元魔王。しかもその背景も、どこかで見たような設定だ。圧倒されてぽかんと口を開けた翔平に、少女は微笑んだ。
「お礼言いたくて、ずっと探してたの。ほんっとにありがとね!」
まさか、魔王本人に感謝されているとは。予想もしない展開に、後悔でじくじく傷んでいた翔平の胸が熱くなる。
「あ、立ち話もなんだから、座っちゃうわね」
おじゃましまぁす、と朗らかに言いつつ、元魔王が翔平の隣に腰を下ろした。その強引さには確かに、暴君だった頃の片鱗が見えるような気がする。
かつて倒してしまった魔王。その幸せそうな姿に、ため息がもれた。
「よかった……」
翔平とポメロは同時にそう呟き、その直後、顔を見合わせて笑った。
話したいことが、たくさんあるよ。翔平は晴れやかな気持ちで、現世の満月を見上げた。
【了】
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