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昼過ぎの幹線道路は交通量が多いが、歩道に座る少年としゃべる犬に興味を引かれた人はいないようだ。翔平の真上には歩道橋があり、どうやらポメロはそこから飛びかかってきたらしい。
「でもあなた、少しだけレインに似てるわ。その黒い髪とか、瞳や肌の色も」
そう言われて目を落とすと、ポメロは首を傾げて翔平を検分している。
「悪いけど、日本人はだいたいこんな感じだよ」
「体は……ちょっと小さいわね」
「成長期だから、これからだし」
「そう、発育が未熟なのね」
「なんかカチンとくる言い方だなぁ」
翔平は、小学六年生の平均的な体格だ。特別小さくも細くもない。
「レインなんて……知らねぇし」
ぼそっと呟いた翔平に、ポメロはなぜか誇らしげに胸を張り、笑顔で告げた。
「レインはね、アタシたちの世界を魔王から救ってくれた勇者よ!」
翔平の顔に虚無感が浮かぶ。ポメロはそれを見て、ぐっと鼻面を上げた。
「あなた、信じてないわね? ダメよ、子どものうちからそんなんじゃ!」
「そんなこと言われても」
「でもまぁ、無理もないわね。レインも、異世界に召喚されたなんて、すぐには信じられなかったと言っていたもの」
魔王、異世界、召喚。ラノベや漫画で見飽きた言葉だ。今どきは小学生でも、その設定に目を輝かせたりはしない。
「レインはね、本当に素敵な勇者だったのよ。レインが闘ってくれなかったら、アタシたちの世界の人間は魔物に駆逐されていたかもしれないんだから」
「……へぇ」
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