38人が本棚に入れています
本棚に追加
1.
「レイン! 見ーつけた!!」
頭上からの甲高い声に、翔平は反射的に空を仰いだ。
青空に……ムササビ?
急接近する毛玉を認識した瞬間、視界が薄茶色で覆われた。
「わぶ……っ」
顔に受けた衝撃に、たまらず尻餅をつく。ランドセルが彼の背中で、ガチャンと鳴った。
「なんだよこれぇ?」
顔に貼り付いた物体を、両手で引き剥がす。
ミルクティー色の柔らかい毛に覆われた、小さな体躯。ジタバタ揺れる短い四肢。真っ黒な二つの目が、翔平の鼻先15センチで爛々と輝いている。
落ちてきたのは、ポメラニアンだった。
「やっと見つけたわ、レイン! もう逃がさない……あれ?」
ポメラニアンは動きを止め、翔平の全身にサッと視線を巡らせてから呟いた。
「え? 誰?」
「いやそれこっちの台詞」
「だって、レインの気配が……」
温かな胴体を支える翔平の手に、小さな鼻口が近づいてクンクン鳴った。
「違う……?」
その声には、明らかに落胆が滲んでいる。翔平はポメラニアンをアスファルトの地面に下ろし、耳元で囁いた。
「なんだか知らないけど、人語が話せる犬なんて、悪い人に捕まったら大変だよ?」
「まぁ! 犬なんて失礼な! アタシにはポメロって立派な名前があります!」
「ポメ郎……?」
「ポ、メ、ロ、よ! レインがつけてくれた名前なんだから!」
「……へぇ」
気を遣って声を落としたのがバカらしくなるほど、ポメロはキャンキャン喚いている。
最初のコメントを投稿しよう!