傷心の私を男友達が誘惑する

9/14
前へ
/14ページ
次へ
「何か扱い雑だよな……」 啓斗のぼやきを背中に浴びながら、ローテーブルにあれこれを乗せる。我が家にはダイニングテーブルなんて気の利いたものはないからこれが食卓代わりだ。それから背後のベッドからクッションを取って床に敷く。 「何飲む? 持ってきてくれた中から選んでもらうことになるんだけど」 「もちろん酒! 汗かいた後のビールって美味いよな」 一言一句同意する。昼から飲むのは最高だし、しかも奢りならなおさら美味しい。五百ミリリットルの生ビールを啓斗の前に置く。 「紗矢は飲まないの?」 「飲みたいけど、昨日飲み過ぎたからやめとく」 「ま、他にもあるし夜のお楽しみってことで」 聞き捨てならない。 「夜まで居座る気じゃないでしょうね」 「えー、ダメ?」 「ダメに決まってるでしょ!? ちゃんと帰ってもらうからね」 「無理無理、熱くて死ぬ」 着替え持ってきている時点でおかしいと思っていたけど、確信に変わった。最初から泊まる気で来ている。ありえない。 「こっちこそ無理! うち予備の布団なんてないもん」 「俺、寝相もいいしいびきもかかないよ」 「だから?」 「最悪床で寝る。なー、お願い。他に行くとこないんだよ」 「いや、ホテルとかネカフェとかいくらでもあるでしょ」 立て膝から正座に足を直したって騙されない。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

386人が本棚に入れています
本棚に追加