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「どうしてもダメ?」
なんで私よりも背が高いのに上目遣いができるんだろう。
「かわいこぶったってダメなものはダメ。彼……元彼だって入ったことないのに何が悲しくて__」
「え、そうなの? 俺が初めてなんだ」
「……そうだけど」
食い気味の発言に気圧されながら頷くと、話のついでみたいな気軽さで質問を投げかけられた。
「で、何で別れたの?」
「……私じゃない人と結婚するんだって」
好奇心や憐れみみたいな余計な感情もなくさらっと聞いてきたから、私も気負いなく答えてしまった。
「はあ?」
啓斗の眉がぐっと寄せられる。
「何それ、二股されてたのかよ」
これ以上ないくらい率直な表現にじくりと胸が痛む。
「うーん……何て言ったらいいのかな」
痛みが胸になじむまでの時間稼ぎをしながら決定的な元彼の言葉を思い返す。
「元彼的には私とはとっくに別れてたみたい。紗矢はまだ若いし俺がいなくても平気そうだけど彼女は俺しかいないって言うし、俺も側で支えてくれる存在に救われた、らしいよ」
聞き分けがいいことで気持ちが離れるなんて全然思いもしなかった。
会いたいって駄々をこねたらよかったんだろうか。でもいくら願ったって物理的な距離は埋まらない。会いに行くための時間もお金も有限だ。
連絡がないのもなかなか会えないのも忙しいからなんだって自分を納得させて、邪魔しちゃいけない、それよりできることをやって次に会う時までに少しでも素敵な女性になっていようと私なりに努力していたこともある。
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