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「……もしもし?」
「俺が熱中症なってもいいの」
反射的に応答すると、恨みがましげな言葉が耳に入る。
「私も予定あるし、困るよ。涼むなら他のとこにして」
「予定ないでしょ」
「……どうして」
「こんな時間まで寝てるし、この前別れたばかりだから」
確かについ先日、四年近く付き合った彼氏から別れを告げられたばかりだけど、その話は啓斗にはしていないはずなのに。
「誰から聞いたの」
「風の噂」
共通の友人は何人かいる。
つい昨晩も大学の同級生が傷心の私を元気づけるためと女子会を開いてくれたばかりだ。きっとそこから漏れたに違いない。
「てわけで、あと十五分で着くから」
「えっ早い、困る!」
「すっぴんの紗矢もかわいいよ」
「……すっぴん見せたことない」
「そうだっけ? じゃあ三十分後ならいい?」
「せめて一時間」
「よし、決まり」
ペースを乱されたまま、いつの間にやら家に上げることは決定事項になってしまっている。
啓斗は営業社員だけあって、頭の回転が速いし口も回る。二日酔いな上、寝起きの状態では太刀打ちできない。
通話を終えた後、ため息をつきながらベッドから起き上がり、重い体を引きずって洗面所に向かった。
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