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「てか、溶けるかと思ったぁ。外、まじでヤバい」
改めて見ると、啓斗の首筋には玉の汗が浮いている。
「わあ……とりあえず入って」
部屋の奥に案内すると、啓斗が大きく息をつく。
「おー、涼しい。生き返るわ」
啓斗がオーバーサイズの白Tシャツの裾を持ち上げ上下させるので、うっすらと縦筋の浮いた腹部が惜しげもなくさらされる。
贅肉のひとかけらもついていない、うらやましい。そんな思いで見つめていると、はためく裾の動きが止まる。
「……えっち」
からかい交じりになじられて、かっと頬が火照る。
「ち、ちがっ」
断じていかがわしい目的で見ていたのではない。濡れ衣である。なのに啓斗は「照れるなよ」などと言って肩を組んでくる。
ケーキを持たされているから振りほどくこともできない。火照った手のひらが二の腕に触れてじんわりと熱が移ってくる。距離が近いのはいつものことだけれど、時と場合を考えてほしい。
「もうっ暑苦しい! 汗臭い!」
「ウソ、俺、臭いの?」
啓斗はショックを受けたように体を離し、自らのTシャツの首元に鼻を突っ込んだ。
「……いや、わかんないけど」
実際に臭うわけではないけれど、ずっと振り回されるのも癪で濁してみる。
「え、どっち? 臭いなら臭いではっきり言ってほしい」
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