傷心の私を男友達が誘惑する

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「たぶん平気。ちょっとは汗っぽいかもだけど、別に不快じゃないから」 そう答えると、啓斗はほっとしたように深く息を吐いた。 「焦っただろ」 「仕掛けてきたのはそっちでしょ」 悪びれずに胸をそらし、踵を返す。そのまま部屋の中央に向かって歩き出そうとした時、こめかみあたりですん、と鼻を鳴らされた。 「……紗矢はいい匂いするな」 嗅がれた!? ぎょっとして体を引くと、勢いあまって肩口を壁に強打してしまった。指先までがじんと痺れる。 「っ、変態」 痛みをこらえながら睨みつけると、啓斗は目を丸くした。 「そこまで驚くとは思わなかった。ごめんな」 ぶつけた肩を包み込むようにさすられて、ほんの少しだけ痛みが和らいだような気がした。 「……二度としないでよね」 「はーい」 女子の匂いを嗅ぐなんて犯罪行為だ。シャワーを浴びたばかりだとしても嫌すぎる。 手を洗わせるために洗面所に案内すると、啓斗にシャワーを浴びたいと言い出した。 「着替えないよ」 「持ってきてるからお構いなく。バスタオルも」 下唇をきゅっと吸い込む。 背負ったリュックがまあまあ大きいのはそのせいか。用意周到である。 バスルームはさっき使ったままだ。入らせるのは抵抗があるけれど、ここでごねると何か隠してるんじゃないかと付け入る隙を与えることになりかねない。 熟慮の上、ため息と共に了承を伝えた。
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