傷心の私を男友達が誘惑する

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「これ以上?」 いきなり押しかけてきたエアコン難民に避難場所を提供しただけでも感謝してほしいくらいだ。少しの間の後、啓斗は諦めたのか苦笑を浮かべる。 「……だめかぁ」 「いいから、とりあえずこれ飲んで」 「やった。すげー喉乾いてたんだ」 用意しておいた氷入りのミネラルウォーターを差し出すと、啓斗は添えたストローを指先で押さえてグラスに直接口をつけた。そのまま喉仏を上下させて、ものの三秒くらいで飲み干してしまう。 「はー、沁みる」 あれだけ汗をかいていたらこの反応も頷ける。 「それで、うち来るまでどうしてたの?」 駅から徒歩十五分の距離を歩いただけでこんなに汗だくになるだろうかと疑問に思って尋ねる。 「八時の時点で自宅は無理ってなったから最寄り駅のカフェでモーニングして、デパートの開店時間に合わせて移動して買い物して、後は紗矢んちの近くまで来てマックで待機してた」 総菜と一緒に入っていた保冷剤の中身がすっかり溶けきっていた理由は時間経過のせいらしい。 「うち来るまで迷った?」 「営業なめんな。地図があったら迷わねえし」 「じゃあほんとに猛暑日なんだ。こんな日にエアコン壊れるなんてついてないね」 「ま、紗矢に会えたしいいけど」 「はい。じゃあこれ持って行って」 総菜のパッケージを積み重ねて渡し、残りとグラスを手に部屋の奥に向かう。
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