身分違いの恋

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身分違いの恋

 *  「ブラック。いつもの。大きいの」  「はい、少々お待ち下さいませ」  サイズ名があるのに“大きいの”  「今日もカッコいいね、あの人」  忙しなく働いている中で同僚が耳打ち  「そうかな」  煙に巻きたいのは同僚じゃなくて  自分の心なのかも  証券取引所って場所で働く人  何もかも見透かしそうな鋭い瞳  仕立ての良さそうなスーツに革靴  受け取る時の爪の形の綺麗さ1つとっても  本当に無駄がなくて隙がない  絵に描いたようなエリート  コーヒーショップのパート店員  接点はコーヒーを介してのやり取りだけ  それで十分  だって身分違いの恋だから  「君、暫く見なかったけど」  “ブラック。いつもの。大きいの”  台詞が違うことに戸惑いを隠せない  「風邪をこじらせまして……いつもので?」  「あぁ」  記憶に残っていることが嬉しくて  珈琲を注ぐ顔が緩む  「お待たせしました」  そう言って渡す一瞬  指先が触れ、心が跳ねる  「ずっと君に会いたかったんだ」  驚いて見つめた先にある、優しい眼差し
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