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半年くらい前に、同じ職場の香奈という女性が退職していきました。
香奈は30代後半で、とても綺麗な人。
彼女は、一度離婚をしていて現在の旦那さんは再婚。
すごく親しかった訳ではないですが、彼女が退職する日の昼休みたまたま話す機会があったんです。
「香奈、どうして退職することになったの?旦那さん転勤とか?」と俺が聞くと
「ううん、違うの。旦那は転勤ないの。」と香奈。
「え、もしかしておめでた?」
つい聞いてしまったが、彼女の顔が曇ったのでやばいと思いました。
彼女が前の旦那さんと赤ちゃんがなかなかできなかったという噂を思い出して後悔していると
「ううん、違うの。でも聞いてくれる?」と彼女は言いました。
「え、うん。」
「今から言うことは黙っててね。誰にも相談できなかったの。」
彼女は俯いたまま、俺の顔も見ずに淡々と話し始めました。
「前の旦那さんとね結婚してた時ね、実は2回妊娠していたの。でもね、2回とも産めなかった。
流産とかそういうのじゃなくて産めなかったの。
妊娠している時に夢を見てしまって、その夢がどうしても怖くて。」
「夢・・・?」
「妊婦の女性が夢に出てきて、その人のお腹めがけて殴ったり、酷い時にはお腹の中に手を入れたりとか。
それがだんだんとエスカレートして、今度は自分自身を客観的に見ている夢になるの。
そしたら、その自分に対しても同じようにしていた。これは1度だけじゃなくて毎晩。
夢らしい夢ならまだいいけど、あまりにもリアルで、感触とか血の匂いまで覚えてる。
だから怖くなって、旦那に黙っておろしたの。」
「・・・もしかして、2回目も?」
「そう2回目も同じ。もっと酷かったよ。」
私は、思わぬ話を聞かされ言葉が出ませんでした。
「だからね、他の男性ならって思って今の旦那と一緒になったのよ。」
そこで、昼休みが終わってその日は彼女ともう話さず終わり
彼女は退職していきました。
そんな彼女とつい最近、偶然街中で会ったんです。
たわいもない話でもしようかと思ったのですが、
「ねぇ、また同じだったよ。今度はもっともっと酷かったの。もうだめかもね・・・」
私の目も見ずに、それだけ言って彼女は去っていきました。
その彼女の言葉と声がなぜかとてつもなく怖く感じて、しばらく立ち尽くしていた気がします
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