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再び二年の時が流れる。
文があった。
とうとう冴は、源之丞を見つけたという。
源之丞は、遥か安芸の国で浪人生活を送っていた。
冴は決闘を申し込むという。
決闘には間に合わぬだろうが、宇兵衛が安芸まで旅してゆくことになった。
弥之助は自分こそ行きたいと思ったが、不自由な足では旅はままならない。
母と共に、継父を送り出した。
安芸の国から宇兵衛が戻ってきたときには、ひと月半が経っていた。
冴は源之丞を討ち果たしていた。
しかし、それと引き換えに命を落としていた。
宇兵衛が安芸に着いた時には、冴は土地の者たちの好意により、既に埋葬されたあとだった。
経を上げた住職が、冴が持ち歩いていた櫛を形見として預かっており、宇兵衛はそれを持ち帰ってきた。
櫛は、四年前に恒が旅立つ冴に持たせたものだった。
小さな櫛を抱いて、恒は咽び泣く。
その背を、宇兵衛が支えていた。
弥之助は、通りへ出て蒼穹を見上げる。
天は変わらず晴れ渡っている。
冴は仇を討った。
妹は、今頃笑っているのだろうか。
父は、弥右衛門は何と言うだろうか。
弥之助の中を、色々なものが渦巻いている。
しかし弥之助は、いずれ冴の死もゆるすのだ。
そうして取り戻した心で、妹の後世を弔う。
いつの間にか頬を濡らしていた涙を拭くと、弥之助は家の中へ戻った。
<終>
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