ある日突然、セフレとデート。

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ある日突然、セフレとデート。

平凡な外見、これと言った特徴のない性格。 そんな僕、岸野葵には、 ひとつだけ他人にはないものがある。 それは、 見目麗しい外見を持つ2人のセフレ。 セフレの名前は、川瀬由貴、佐橋雄大。 彼らは中学時代からの親友で、悪友だ。 17歳の誕生日の夜、僕は彼らに襲われ、 童貞というか処女を喪失した。 最初は合意の上ではなかったが、 快楽と情に絆され、最後まで許してしまう。 2人とセックスしてみて、初めて知った。 バカ騒ぎをわちゃわちゃしていた時と違う、 力強いオスとしての顔を見せた川瀬に、 優しくきめ細やかな姿を見せた佐橋。 どちらとも改めて、 他人を惹きつけて止まない魅力の持ち主 だと身をもって知ったのだ。 果たしてこの関係がいつまで続くのか。 僕の意志ではなく、 どちらかの意志、または両方の意志で ゆくゆくは終わりを迎えるだろう。 そう思っていたので、求められるうちに 後悔なく抱かれておこうと思っていた。 だから突然2人から、今後の関係についての 引導を渡されるとは思いもしなかった。 1週間前。 3度目の2人きりのセックスの終わりに、 川瀬が言った。 「岸野、今度デートしない?」 「うん。もちろん」 「行きたい場所があれば、提案して」 4日前。 同じく3度目の2人きりのセックスの後に、 佐橋が言った。 「岸野、今度デートしよ?」 「うん。もちろん」 「行きたい場所があれば教えて」 同じタイミングで2人にデートに誘われた。 親友として会うのも 最近は3人がほとんどだったので、 ドキドキした。 彼らと、どんなデートができるのか。 僕は深く考えることもせず、この日を待ち望んだ。 先に実現したのは、川瀬とのデートだった。 しかし、自宅の最寄駅の改札に着いた僕は、 そこに川瀬だけではなく佐橋もいることに驚いた。 「えっ、今日って川瀬とデートなんだけど」 「岸野。今日は、僕ともデートなんです」 「え。来週じゃなかったの」 「黙っててごめんね。もちろん僕たちが デートに誘ったのも、考えがあってのこと だから」 「今日は岸野に決めてもらおうと思ってさ」 「何を」 川瀬の言葉に疑問を感じ、問いかけたが、 川瀬も佐橋もそれには答えず、微笑んだ。 「次の電車逃したら、しばらく来ないから とりあえず街に出よう」 佐橋の先導で、僕たちはホームに向かった。 側から見れば、 ただの高校生男子3人の集まりだったが、 電車に乗ってすぐに2人が火花を散らして いることに僕は気づいた。 でも正直言って、 僕はまだこのままの3人が良かった。 2人に対して異性として多大なる魅力を感じ、 今まさに恋愛感情を育て始めていたからだ。 だからどちらかにまたは両方にこの関係を 進めたいと言われたら、迷ってしまう。 「川瀬、佐橋。これからどこに行く?」 お互い目を合わせようともしない2人に、 様子伺いのつもりで訊いてみたが、 「川瀬はどうしたいの?」 「佐橋こそ」 と牽制し合って、一向に話が進まない。 僕は仕方なく、 「時間が合えば観たい映画があるんだけど」 と切り出した。 「いいよ。映画ね。川瀬はそれでいい?」 「もちろん。岸野の観たい映画で」 瞬間、バチバチッとまた火花が散る。 ああ、怖い。 何故この2人、 わざわざ一緒にデートしているんだろう。 特に、来週に会う予定だった佐橋。 自分のいないところで川瀬と僕が親密に なるのが、そんなに気になったのか。 というか僕は2人に、 どれくらい思われているのだろうか。 だからその思いを、正直に口にしたかった。 たとえそこが、電車の中であっても。 「あのさ。僕ってキミたちにとって、 どれくらい大切な存在なの」 電車が停まり、 3人でホームに降り立っても、 彼らは微笑むだけで、 僕の質問には答えてくれなかった。 しばらくして、川瀬が言った。 「それより、岸野の今の気持ちが聞きたい」 「うん。僕も岸野の気持ちが知りたい」 佐橋も言葉を続けた。 「わかった」 今まで迷っていたが、もう言うしかない。 彼らも覚悟はしているだろう。 どちらかの手を繋いだら、 どちらかの手を離すことになる決断だ。 友情だって、決裂するかも知れない。 僕は目を閉じて、息を吐いた。 そして、ある人の顔を思い浮かべた。 「じゃあ、また学校で」 乗って来た方向の電車で帰るその人を、 静かに見送った。 「本当にごめん」 「大丈夫、今まで楽しかった」 「ありがとう。また」 電車のドアが閉まり発車してからも、 僕の隣にいる人は俯いたままだった。 自分たちが知りたいと言った僕の気持ち。 あっさり名前を言われて、 選ばれた方も複雑な心境だったのかも 知れない。 「映画、どうする」 彼は顔を上げ、苦笑いした。 「ごめん、何か観る気がしなくなった」 「だよね」 「岸野を独り占めしたかったけど、 こうして岸野に選ばれて少し怖くなった」 「うん」 「3人でまた、うまくやれるのかな」 「友達として?」 「うん。2人が恋人になっても」 「そうだな。僕も選ばなかった彼を 嫌いだった訳ではないよ。ただ、1人を 選ぶなら彼ではなかった。それだけだよ」 「訊いてもいい?僕を選んだ理由は?」 「初めてのセックスの時に」 「うん」 「一緒にイこうなって言ってくれたでしょ」 「ああ。覚えてるよ」 「2人のどちらを選べばいいのか、ギリギリ まで迷ってたけど、あの言葉は僕の中で 最高に嬉しい言葉だったことを思い出した。 もちろん最初は、嫌々始まったことだった けど、それでも一緒に楽しもうぜっていう 気持ちを込めて言ってくれたと思ったんだ」 「うん。岸野が少しでも感じてくれたら。 そういう気持ちで伝えたのを覚えてる。 ちゃんと伝わってたんだね、良かった」 僕は彼の手を取り、そっと指を繋いだ。 「もう、僕の恋人だって言ってもいいよね」 彼もしっかり指を繋いできてくれた。 「うん。よろしくお願いします」 平凡な外見、これと言って特徴のない性格。 そんな17歳の僕に、初めて恋人ができた。 もちろん元セフレのうちの1人だったことは、 いろいろ誤解されるので、誰にも内緒だ。
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