機械人形

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 お腹から海の音がする。今日は海の日。なわけではなく、ただ壊れただけ。  先月は耳から星がぶつかる音がした。きらきらの破片がかちゃかちゃいっていた。  その前の月は目から花が生えていた。見たことない花だった。どこか遠い国の花のようだった。白い花弁にひとすじ青がついていた。  最近は色んな所が壊れるようになった。もう寿命かな。大分長い間一緒にいたけれど、ここで終わりかな。  でも、大丈夫。記憶データはバックアップを取っておけばいい。そうして新しい体の脳部分に埋め込めば、また元通りだ。全く同じ毎日が送れる。  頭の横のボタンを押した。周りには壊れた硝子の鳥がいて押しにくかった。  ボタンはカチンと音をたてると、そのまま奥へ引っ込む。出来た穴から指先を差し込んで中を探る。そうしているうちにメモリを見つけて、爪に引っ掛けて取り出す。  メモリは小さく鈍色に光っていた。周りが黒いプラスチックで保護されている。爪でそっと引っ掻いてみると、嫌な音を立てて擦れた。  とてもこの中に記憶が全部入っているとは思えない大きさだ。これまで失敗したことはないから大丈夫だろうけど、どういう仕組なのだろう。  腕をそっと持ち上げてみる。機械的な動きで、それはゆっくり上へ動いた。仕組みなど知らなくても生活していける。毎日同じように起きて同じように電気金魚の世話をする。  メモリを透明なビニール袋に移して上をしめる。それから、ボタンの横にあるロックを横にスライドする。中には特殊な電磁気発生装置がはいっていて、動かしている。仕組みは、知らない。知らなくても生活は続いていく。  電磁気発生装置を抜き取りロックする。もう一度ボタンを押して元の状態に戻し動かないのを確認すると、メモリを手に取った。  また新しい機体に入れてあげないとね。私が変わらず生活していくために。  「おかーさーん! またおばあちゃんが人形壊したー!」  麗奈穩(レイ二イ)は ̄/▶に向かって声を張り上げた。目の前には無様な姿で転がる人形がおいてある。子供の間で流行っているもので、桃色の肌に青色の髪の毛をして最先端のファッションをしている。  「はいはい、今いくよ! 何次元にいるの? おばあちゃんももう年だからね、昔のことと今のことがごっちゃになってるのよ! おばあちゃんのときはまだアステリアスケリミーだって無かったんだからね。とにかく、今何次元にいるの?!」  「三次元!」  麗奈穩(レイ二イ)はそう叫ぶと溜息を付いた。なんで母親ってものはああ急いでいるのだろう。何次元にいるか言おうとしたらいきなりおばあちゃんの話なんか始めて。大体、アステリアスケリミーがなかったらどうやって生活していくのだろう。 「私だったら生きてけないや」  母親が来る気配はない。待ちくたびれて麗奈穩(レイ二イ)は空展iPhoneを開いた。SNS上ではすでに新しい人形が話題になっている。自分の人形に目を向けると、こころなしか髪も汚れて体も曲がっているように見える。  麗奈穩(レイ二イ)はもう一度ため息をつくと、足元に転がる機械人形を軽く蹴った。
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