相合傘の思い出

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4話  彼女の仕事ぶりは高く評価されていた。  真面目で愛嬌もある彼女はみんなから好かれていて当たり前だった。それにより彼女に辞令が出る。  店長研修として2ヶ月の新宿店勤務  新宿店勤務となるとここから通うのは大変だ。だが、彼女はそれでも通った。なるべく僕と一緒にいてくれた。だけど。 ーーーーー  2ヶ月後 「私、店長になったよ」  暗い顔で彼女が報告してきた。目は腫れていた。  それで僕もすぐ勘づいた。 「お別れなんだね」  彼女の担当店舗は神戸市だった。さすがに会えない。 「私、自分がどこまでやれるか試してみたい」 「そうだね」 「ごめんね。勝手に好きになって。勝手に離れてってさ。こんな勝手な女。嫌いだよね。」 「そんな勝手な所もいい。どんなキミも好きなんだよ」 「優しいね。アリガト」  それからは、別れの日が来るその最後の日まで毎日ずっと抱きしめたまま寝た。別れたくなかった。別れが近くなればなるだけ、より一層好きになってた。  そして、引っ越しの日。 「ごめんね。今までありがとう」  そう言うと僕に彼女は合鍵を返した。 「いや、これは持っていてくれ。いつ、帰って来てもいい。キミをきっとずっと受け入れる僕でいるから。その、約束としてそのまま渡しておく。」 「ドロボーに入るかもしれないよ?」 「いいよ。キミにならなんでもあげる。ユウコ、キミには何されたっていいんだ」  そう言って鍵を受け取らないことにした。僕にはまだ彼女との完全な別れが耐えきれなかったのかもしれない。現実がつらくて、こんな約束をしたのだろう。 「約束を…こんな勝手な私とまだしてくれるの…。」  そう言って彼女は一筋の涙を流した。  それを見て初めてこれは本当にお別れなんだ。と終わりを悟った。途端、僕も涙が出て止まらなくなった。 「あ、これは返さないといけないか」  僕は彼女に彼女の部屋の合鍵を返した。そこは解約するので鍵を持ってても仕方ない。 「いつでも、帰ってきていいから」  それは僕からの最後の一言になった。  彼女はとても悲しそうな、それを精一杯我慢しているような、そんな笑顔で頷くと僕の元を去って行った。 ーーーーー …その後、ユウコが帰ってくることは無かった。  ユウコは今も元気なんだろうか。  今となってはもう、十何年も前のことだが、通り雨が激しくて雨宿りをすると、それでもいつも思い出す。あの日の約束のことを。 …だって、一度愛してしまったら、忘れることなんて出来ないでしょう? …どんな終わりを迎えたとしても、愛された記憶は消えないでしょう?  今日の雨はあの日を思い出すくらいの激しさで、ふと涙が出てきて止まらなかったのでこれはもう濡れて隠してしまおう。  僕は大雨の中、それは好都合と歩き出す。  忘れられない、相合傘の思い出。 了
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