2話 大貴族の御曹司

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屋敷の中は見事なまでに美しかった。 華やかに彩られた美術品の数々。 黄金の装飾を身に(まと)う、建立当初から立ち続ける古くも色褪(いろあ)せることのない巨大な支柱。 床や壁、全てにおいて美しい。 まるで屋敷の中と外、そこに世界を分かつ小さな境界がある。 そう錯覚させる程。 「レディ? どうかしたのか」 これこそが普通である。 と理解に至らない現実を突きつけられているように思えた。 さすが帝国一の大貴族だ。 なんだか少し、いやとてつもなく悔しい。 あ〜。 自分が卑しい存在のように思えて恥ずかしくなってきた。 「レディ? はあ、おいクリス。 こっちだ、早く来てくれ」 突然腕を掴まれた。 唐突過ぎてびっくり! 何すんだよ。 彼女にとってはそうだが、アーサーにとっては何度も声をかけたのに無反応だった彼女が悪い。 「ほら」 アーサーは扉の前に彼女を突き出す。 開けてみろと目配せをするので、彼女はゆっくりと扉を開いた。 そこは広く絢爛(けんらん)な部屋。 見ただけでベッドがふかふかだって分かる。 というかいるだけでなんだか目がちかちかする程眩しい。 「ここの部屋の所有権は二十日の間、レディクリス。 貴女にある。 自由に使ってもらってかまわない」 「う、うん。 ありがと・・・って、え!?」 本気で言ってる!?
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