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そう、忘れてはならない。
これは彼女の復讐の旅。
貧民が貴族になって豪華な生活をする、とかそういう話ではない。
彼女はまだスタートラインにすら立っていないのだ。
「レディ?
どうかしたのか?
部屋の中から君の大声が聞こえたが?」
アーサーがひょっこりと覗き込んで言う。
「うぇ!?
ううん!?
なんでもないわよ!?
ああ、ほら!
大会前だから、あがっちゃってね!?」
意図的にやってる?
不意に腕掴んできたり、声かけたり。
ほんとびっくりするじゃない!
ただ彼女が不注意すぎるだけである。
「そうか。
そろそろ出るんだが、会場まで共に行かないか?」
「あーそうね。
行くわ、一緒に」
ここ二十日間。
彼女は奇行以外にも、対戦相手になりうるだろう闘士たちのことを、街にいくつもある訓練場や小さな闘技場へ赴き、こっそり見て回っていた。
優勝目指してるんだから、少しくらい勝ちに繋がることををしなくちゃね。
でもアーサーのことだけは分からなかった。
ただ毎日走り込んでいるのみだった。
剣を扱うのか、槍を扱うのか。
はたまた見たことはないけれど、魔術を扱うのかもしれない。
ほんのちょっぴりだけだけど心配だ。
もしかして神風じゃなくて、暗雲を呼び込む悪風だったりしてね。
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