2話 大貴族の御曹司

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そう、忘れてはならない。 これは彼女の復讐の旅。 貧民が貴族になって豪華な生活をする、とかそういう話ではない。 彼女はまだスタートラインにすら立っていないのだ。 「レディ? どうかしたのか? 部屋の中から君の大声が聞こえたが?」 アーサーがひょっこりと覗き込んで言う。 「うぇ!? ううん!? なんでもないわよ!? ああ、ほら! 大会前だから、あがっちゃってね!?」 意図的にやってる? 不意に腕掴んできたり、声かけたり。 ほんとびっくりするじゃない! ただ彼女が不注意すぎるだけである。 「そうか。 そろそろ出るんだが、会場まで共に行かないか?」 「あーそうね。 行くわ、一緒に」 ここ二十日間。 彼女は奇行以外にも、対戦相手になりうるだろう闘士たちのことを、街にいくつもある訓練場や小さな闘技場へ赴き、こっそり見て回っていた。 優勝目指してるんだから、少しくらい勝ちに繋がることををしなくちゃね。 でもアーサーのことだけは分からなかった。 ただ毎日走り込んでいるのみだった。 剣を扱うのか、槍を扱うのか。 はたまた見たことはないけれど、魔術を扱うのかもしれない。 ほんのちょっぴりだけだけど心配だ。 もしかして神風じゃなくて、暗雲を呼び込む悪風だったりしてね。
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