1話 少女の旅立ち

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1話 少女の旅立ち

「・・・ろ・・・。・・きろ・・! クリス! 起きろ!!」 聞き慣れた声がする。 私を呼んでいる・・・。 「んん、う〜ん・・・」 「仕事だぞ!」 そうだ、この声は。 「くあ〜っ! うん、おはよう・・・・」 大きく欠伸をし、目を擦る。 今は夜。 時間にしておよそ十時と言ったところだろう。 おはようと言うには、遅過ぎる時間だ。 「ったく、しっかりしろ。 今日んところは今までにない大物だ。 帝国一の大貴族、リーヴ家の大豪邸だ。 気合い入れてけよ」 「うん、分かってるよ。(かしら)」 寝起きなので、ほんの少し頭がぼんやりする。 彼女ら盗賊団はこれから、裕福な貴族から高価な品々を盗みに行く。 盗んだものは貧民らに分け与え、日々の生活のつてにさせた。 義賊紛いなことをしてきたのだ。 彼女は幼い頃からそんな盗賊団を見て、まるで英雄のようだと錯覚していた。 「さっ、とっとと行って終わらせましょ! 心配なら私が全部やってあげるから。 頭、鈍臭いし」 彼女は立ち上がると、衣服を一度叩く。 微量に付着した土埃を取る為だ。 そんな彼女を頭は、呆れたように見つめ、悪態をついた。 「全くいつからそんな生意気になったんだか。 お前を拾った時はもっと良い子だったのに」 そう、彼女は捨て子だったのだ。 根城のそばに(そび)える山。 その(ふもと)に捨てられていた。 今彼女の目の前に立つ男、頭は彼女を拾い上げ、十六になるまで守り育てたのだ。
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