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しかしそんなものは紛い物だ。
私兵団の猛攻はまるで彼女たちを、そう嘲笑うかのように、ことごとくを打ちのめしていく。
数も技量も私兵団が一枚上手。
こんなものは負け戦だ。
「・・あっ! 頭ぁ!!」
必死に抵抗を続ける彼女の瞳に、ふと、今にも打ち負けてしまいそうな父親の姿が映り込んだ。
───助けに行かなくては。
「今助けっ・・!」
勿論彼女にも余裕なんてものはない。
他を見ている暇もなく、私兵団による嵐のような攻撃は続けられる。
「どいてっ! !」
人は殺さない。
決してその信条は曲げたりしない。
曲げたくない。
彼女は兵士の腕や脚を狙い、動きを封じることにより戦いを制す。
ここまでやれていることは、まさに奇跡とも言えよう。
「頭ぁ!!!」
嵐を抜ける。
しかし奇跡はここまで。
その瞳はしかと捉える。
「・・・・・っは・・?」
血の海に沈み既に動かなくなった、ただの肉塊を。
そのすぐ側には剣を血に染めた白い外套を着た青年が───無表情に立ち尽くす。
瞬間、青年に向かって飛び出す。
───この青年に剣を突き立てる。
今の彼女の頭にはそれしかない。
(許せない許せない許せない許せない)
彼女は今、自身を支配している全ての怒りを込めて青年を睨みつける。
(許せない許せない許せない許せない)
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