1話 少女の旅立ち

4/12

33人が本棚に入れています
本棚に追加
/258ページ
しかしそんなものは紛い物だ。 私兵団の猛攻はまるで彼女たちを、そう嘲笑うかのように、ことごとくを打ちのめしていく。 数も技量も私兵団が一枚上手。 こんなものは負け戦だ。 「・・あっ! 頭ぁ!!」 必死に抵抗を続ける彼女の瞳に、ふと、今にも打ち負けてしまいそうな父親(かしら)の姿が映り込んだ。 ───助けに行かなくては。 「今助けっ・・!」 勿論彼女にも余裕なんてものはない。 他を見ている暇もなく、私兵団による嵐のような攻撃は続けられる。 「どいてっ! !」 人は殺さない。 決してその信条は曲げたりしない。 曲げたくない。 彼女は兵士の腕や脚を狙い、動きを封じることにより戦いを制す。 ここまでやれていることは、まさに奇跡とも言えよう。 「頭ぁ!!!」 嵐を抜ける。 しかし奇跡はここまで。 その瞳はしかと捉える。 「・・・・・っは・・?」 血の海に沈み既に動かなくなった、ただの肉塊を。 そのすぐ側には剣を血に染めた白い外套を着た青年が───無表情に立ち尽くす。 瞬間、青年に向かって飛び出す。 ───この青年に剣を突き立てる。 今の彼女の頭にはそれしかない。 (許せない許せない許せない許せない) 彼女は今、自身を支配している全ての怒りを込めて青年を睨みつける。 (許せない許せない許せない許せない)
/258ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加