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怒りは、世界を知らない彼女に新たな感情を芽生えさせる。
その感情の名は、憎悪だ。
だがやはり、奇跡はもう彼女に味方しない。
振り降ろした剣の重さに、酷く体力を消耗した彼女の身体は思わず体勢を崩す。
そしてその瞬間、背に鉛のように重い何かが突き刺さった。
( あれ・・・?)
気づけば彼女は地に伏せっていた。
生暖かい何かが、身体中から抜けていくのが分かる。
(え・・・?
身体、動かないんだけど・・・)
先程まで自在に動かせていた筈なのに。
今は彼女の意思に反し、指の一本も動かない。
───ああ、そうか。
感覚が彼女に訴える。
おかげで理解できた。
(私、死ぬのか・・・。
情けな、こんなあっさり。
あーあ。
死にたくないなぁ・・・・)
酷く発熱しているように感じたはずの身体は気づけば熱を失っていた。
この日、クリスという名の少女は命を落とした。
死んだのだ。
青年は彼女の元から離れて行く。
盗賊団も残り僅かだ。
少しだけ心に余裕ができたから、その緩みが一瞬判断を鈍らせる。
「・・・・っ!!」
なんとか防御に回した左腕は重い蹴りを受ける。
足は地を離れ身体は少し後方へと飛ばされる。
同時に何が起きたのかを確認した。
彼の目の前には既にこと切れたはずの少女の姿。
糸に吊られた人形のようにゆらゆら揺れて、その場に立っている。
つまりはまあ、理解に固くない。
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