1話 少女の旅立ち

6/12
前へ
/258ページ
次へ
「ほう、今のを防ぐか。 やるな、男」 蹴り飛ばしたのは少女だ。 目を向けず腕の状態を確認する。 左腕は痺れ、手を握るのも難しい。 華奢な少女からこれ程までの威力。 にわかには信じ難い。 そしてなにより、左手で剣を握り戦う彼には致命的なものである。 だが、どうやら少女に戦意はないようだ。 彼は剣を震える手で納める。 「驚くと思ったのになぁ。 殺したはずの小娘が今こうしてここに立っているんだ。 普通は驚く」 少女は不貞腐れたような顔で、彼を見つめている。 「ん?」 突如頭蓋を狙った、矢による狙撃が少女を襲う。 しかし矢は何に防がれたのか、届くことなく、二つに分かれ地に落ちる。 「毒矢か・・・。 受けずに防いで正解だったな。 男、名はなんと言う」 少女は狙撃手に警戒することもなく彼を見る。 少女の興味は彼にあり、狙撃手など、道端に転がる石程どうでも良かった。 狙撃手は自身の位置を変え、もう一度狙う。 矢を引き絞り、放つ。 その直前。 「メルト、いい」 あまりに舌足らずな一言であったが、狙撃手はきっと付き合いが長いのだろう。 殺気と共に手を引いた。 「グリム」 「そうか」 徐々に三人の元には私兵たちが集まる。 「まあ、こうなるよな。 ではなグリム。 また会おう」 少女は地に手を触れる。 一人の私兵は、それを隙だと見たか、少女に斬りかかる。
/258ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加