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「響華 」
響華がいつものように使用人たちと庭で洗濯をしていると、遠藤斗輝が声をかけてきた。
斗輝は、遠藤家の次男であり響華と鈴華の幼なじみである。
「これ、みんなで食べて」
斗輝が使用人たちに珍しい洋菓子を差し出すと、使用人たちはみんなで分けようとその場から離れていった。
「斗輝。今日はどうしたの? なんだか元気がないように見えるけれど……」
「いや、大丈夫だよ。浚さんに呼ばれたんだ。……じゃあ、また後で 」
いつもと少し違う様子の斗輝の背中を見送ったあとしばらくすると使用人たちが呼びに来た。
浚の書斎に行き、扉のむこうへ声をかける。
「失礼します。響華です 」
入れと言う浚の一言のあと、扉を開けるとそこには鈴音と鈴華、そして斗輝がいた。
滅多なことがない限り家族の話には呼ばれない響華は首を傾げる。
響華が入ってきたのをちらりと見た浚は話し始めた。
「西銘家は遠藤家の次男、斗輝君に継いでもらうことになった 」
「よろしくお願いします 」
斗輝が義母と異母妹に、挨拶をするのを見て響華は悟る。
それでも話を遮ることは許されないので、そのまま静かに続きを待った。
「斗輝くんには鈴華か響華のどちらかと結婚してうちに入ってもらおうと思うのだが、鈴音はどう思う?」
浚が鈴音を伺うように問いかけると、鈴音はふわりと微笑む。
「響華さんが長女ですもの…響華さんが家を継ぐのかしら?でも、鈴華が居なくなってしまうのはとても悲しいわ 」
「お母様……私もそれは悲しいわ…。お姉様。お願い。私にこの家を継がせて?」
響華はこうなることを初めから理解していた。この2人は、理解させていた上で響華に断れないような言い方をするのだ。
「はい。…では、私がこの家に残る訳には行けませんね。どうすればよろしいでしょうか?」
響華がそう浚に尋ねると、浚は少し安堵したような表情を浮かべた。
そして、こう答えた。
「では、響華には藤堂家に嫁げ。婚約は3日後だ 」
こうなることを予想していたような答えに響華は息を飲む。だが、反論など許されるはずもなく響華は全てを受けいれた。
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