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再会
繋がっていた糸を切ったのは、
紛れもなく僕。
独りでいる事に慣れていたはずなのに、
今とても寂しくてたまらないのは
何故だ…?
連日の猛暑日ですっかり体力を消耗し、
点滴を打ちに訪れた診療所の待合室。
ぼんやりソファに座っていたら、
声をかけられた。
「…久し振り」
その笑顔に癒された日々があった事を
思い出し、同時にゆっくりと記憶の時計が、
巻き戻っていく。
2ヵ月前まで店の近くにあった、
カラオケボックス。
ガラスの向こう側には、カウンターで
談笑する数人の制服を着た男女。
なにげない出会い、偶然の再会、
渡されたチケット。
神保町での遭遇、気持ちを確かめ合った夜。
忘れたくても、忘れられない。
強烈で、密度の濃い恋物語。
「うん…」
募り始めた想いを隠すために言葉を濁すと、
人懐っこい笑顔を向けたまま、
再び彼の唇が動いた。
「元気だった?」
「…君は、元気そうだね」
我ながらすごく無愛想だと思ったが、
こういう場合どういう反応をしたら
いいのか全く判らなくて、
そのまま彼から視線を外し、
膝の上に乗せていた本に戻る。
視界の端に彼の気配を感じたまま
しばらくうつむき、
でもやっぱり気になり顔を上げれば、
僕の隣に座った彼は
まっすぐ僕を見つめ続けていた。
相変わらずの優しい笑顔に、目が眩んだ。
「ねえ。それは目の前にいる僕よりも、
興味のあるモノだったりする訳?」
相手が相手だけに、
何を根拠にそんな自信に満ち溢れた言葉が、
とは思えなかった。
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