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「着いた…!」
最後の一段を踏み越えてそのまま廊下に倒れこんだ。
私にとって夏はそのすべてが度が過ぎていた。
気温だけじゃなく、夏が持つ独特の煌めきや切なさや何でもない日常を特別に変えてしまう魔法みたいなものが。
魔法と言えば美術室のドアは鍵穴の付いている方を少し上に持ち上げると開けやすい。だけどこの「少し」の度合いが絶妙に難しい。
先輩から伝授されて早9ヶ月。
これはもはや魔法の域に達していると自負している。
鞄をおいて窓辺にたたずむ。海がいつものように横たわっていた。
窓から半分身を乗り出すようにして下を覗くと校舎の陰に覆われたグラウンドが見える。朝の日陰は薄っすら青色。
視界に水色のフィルターがかかったみたい、綺麗。
太陽の位置がちょっと高くなると、ほら。
グラウンドの端から金色に染まってく。
続々と集まってきた野球部が隊列を組んで走り始める。
みんな同じ坊主頭に同じミズノのユニフォーム。だけど、私が見ているのは一人だけ。
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