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一ノ瀬くん。
絵はもうほとんど仕上がっている。土曜日の朝は彼から急いで目を離す理由が見つからない。
向こうはこちらに気づかない。きっと、私がこうやって目で追っていることも知らない。
「おっはよー!」
いきなり声を掛けられて、2つの動揺のうちの片方をできるだけ隠しながら振り返るとドアのところにリナが立っていた。
「お、おはよ」
リナは「入ってもいい?」なんて訊きながらもう足をこちらへ踏み出している。
「いいよ」と私が答えるとリナは軽快なステップでそばまでやって来た。
その間に私は少しだけ窓の開きを小さくした。
「絵は?どう、できた?」
星が散りばめられた少女漫画のヒロインのような大きな瞳が迫る。
「だめだよ、まだ全然できてないから見せられないよ」
顔の前で両手を振ってついでに目を逸らした。
「えー、休日も出てきてんのにまだ完成しないとかどんだけの大作なんだよ」
とリナは笑った。
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