メロンパンとドッペルゲンガー

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メロンパンとドッペルゲンガー

 空を覆う雲は冷たい雫を振りまいて薄暗い街を冷たい灰色に塗りつぶす。  雨は駅から吐き出された傘の花をしとどにぬらし、気持と足元を冷たく湿らせて流れ落ちていく。 (――雨は嫌いじゃない。けど……)  傘を叩く音。水溜まりに滲む人の影。  揺れた波紋に歪むのをにらんで顔をあげる。  すこし離れた場所に見慣れた背中を見つけて目を輝かせて足を速めた。 (――諒さんだ)  笑顔で駆け寄ろうとして、やめた。  なぜなら隣にいる姿に遠慮したから。  小花を散らした春色のスカートと暖かそうな桜色のカーディガンを羽織った女性。長い黒髪に覚えがあった。  だいたい、諒が親しくする女性は数えるほどしか知らない。 (綾乃さんと一緒なのね)  明るい色の傘の下で肩を寄せ合う姿にサキの気持ちは暗く沈む。 (どこかに傘を忘れて他人(ひと)人の傘に……諒さんらしいけど……)  睦まじく傘を分け合う姿は恋人同士のようで声をかけるのをためらった。  視線の先で雨に滲む横断歩道を渡りきる背中を見送って立ち止まる。  ややあって二人は商店街の奥へと消えて行く。  立ち止まって赤信号を見上げて電子音のさえずりを聞きながら思案する。
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