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本堂へとつながる渡り廊下で細い柱に寄りかかって、時間が過ぎるのを待っている。このまま消えてしまいたい。
戻って軽めの昼食を済ませると制服に着替えたのだが、足はざわめく本堂に向かうのをためらった。
(逃げ回ってるわけじゃないもん)
などと、言い訳をしてみるが――間違いなく逃げている。
「サキちゃん」
不意に磨き上げられた床が軋んだ。
声の主は栗色の少し癖のあるショートカットの女性。黒いワンピースの襟元には真珠のネックレス。
見覚えのある顔のお腹周りは以前よりふくらみを増していた。
「……おひさしぶりです」
「来てくれないんじゃないかって思ってた」
サキの心の内をあらわすように沸き起こった風が木立をざわめかせる。
緊張でしっとりと汗ばんだ手を握り込む。
木の葉のささやきに、静かな問いかけが乗った。
「まだ、ダメかしら?」
責めるでもない柔らかな問いに心がざわつく。
「一緒に暮らせません――私は家族を壊した原因だからダメなんです」
迷って、伝えるべきだと言葉を継ぐ。
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