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今のサキの願い事は学業成就でも商売繁盛でもない。
(新しい家族が元気でありますように)
社務所に並ぶ色とりどりのお守りの中でサキが取り上げたのは――赤い錦に張り子の犬が織り込まれたもの。
受け取った相手が少し不思議そうな顔をしていたが気にしない。
(渡したら、喜んでくれる……かな)
こじれた関係にきっかけが欲しいのはサキも一緒だ。
白い袋に入ったそれを無造作にポケットに押し込んで帰路につく。
「さすがに諒さんも帰ってるよね」
先に歩いて行ったのだからそう決めつける。
うっかり心の声が漏れたが気にしない。年を取ると独り言が――というほど老けてはないつもりだが、どこか疚しい気持ちがあるのかもしれない。
「サキちゃん?」
嬉しそうな声に驚いて顔を上げた。
雨の匂いに覚えのある甘い香りが溶けた。
慌てて会釈すると青い紙袋を抱えた綾乃が笑顔になる。
「今、帰り?」
「あれ、さっき……?」
諒と一緒だった――と続く言葉をのみこんだ。
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