メロンパンとドッペルゲンガー

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 二人が一緒に居たからと言ってサキが咎める必要もない。  小首を傾げた綾乃に曖昧に笑って誤魔化す言葉を慌てて引きずり出す。 「もしかしてこの辺りに住んでるんですか?」 「ううん。今日は一駅手前で降りて買い物よ」  香水とは違う甘い香りを封じ込めた青い紙袋を示して見せる。 「雑誌でおいしそうなメロンパンの特集を読んだら食べたくなっちゃって。我慢できそうにないから晩御飯の前にこっそり食べちゃおうかなって」 「いいなぁ、オルトマーレのメロンパンですか?」 「そう、すごい人気よね。この天気だからチャンスだと思ったのに行列ができてて……出来立てを買うのに十五分も並んじゃった」  「実は近所に住んでるのにまだ食べたことないんです」  正確にはメロンパンを嫌う男がいるから遠慮している。「よろづ」で消費されるおやつは鯛焼きやどら焼きなどの和菓子ばかり。 「……彼も甘いものが好きだから一緒に食べようって思ったの」  抱えた紙袋を示して楽しそうに笑う。 (いいなぁ、楽しそうで) 「彼氏さんとは仲直りできそうですか?」 「たぶん、大丈夫。これからのこともちゃんと話をしなきゃいけないし」 「――?」  ついでのように意味ありげな告白をされてしまったが、敢えてその話題に触れない。小首を傾げたサキのポケットの中で携帯が震えた。
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