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無意味な言い合いにそっと視線を外した。
窓の外は穏やかで風に雫を振り落とした若葉が目に染みる。
「誰のせいで忙しいと思ってるんですか」
「領収書整理はミケの担当だろ」
(その領収書を出さないのは誰よっ!)
サキは心の声を無理やり呑み込んで画面をにらみつけた。
「そういや……あれ、休み?」
鼻を鳴らした諒が視線を移したのは壁のカレンダー。
(今頃、気づいたか)
本日は四月の最終土曜――青い日付に赤丸がついている。
「急用だと呼び出しておいて今さらですか」
「悪い。埋め合わせに昼飯をおごってやる」
「いえ、午後から予定があるので結構です」
つれなく言うサキは請求書を作成する手を休めない。
バツが悪そうに窓の外へ視線を逸らしてまばゆそうに目を細めた。
「なるほど。だからあっちは忙しいのか」
坪庭を越えた先は本堂。朝から騒々しい。
「――――ですね」
それもそのはず。本日は法事の予定が入っている。
いつもなら駆り出される二人が――今日はお呼びがない。
(諒さんは本業が優先だし……逃げ出す理由が欲しかったのかも)
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